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眩しいのは天気がよすぎるせいじゃなく。

腕の素肌がパリパリしてる気がする。唇もほんのりパリついてる。

昨日はよく晴れて、学校運営協議会の会長さんは、開会式の挨拶で
「今日が晴れますように…と天神様にお願いをしてまいりましたらこのような晴天になってしまい、これはすべて私のせいです」
とおっしゃって、
「熱中症アラートが出るかもしれませんが、十分な休憩と水分補給を──」
と危惧されていた。

天気が良すぎる、のも気を遣うご時世なんだな、と日傘をさしながら思う。
隣のかおちゃんは目深に麻のハットを被り、サングラスをしながら、日焼け止めスプレーをチャカチャカして「する?」に「うん」と答える前に、私の腕にシャーッとしてくれた。いい匂いがする。

朝礼台の横でマイクをもって、赤のハチマキをした三女が司会進行をしていた。もう全校の前で話すのも慣れたと言っていたけれど、まったくスムーズで、姉たちの後ろにくっついてハニカミながらいろいろを済ませてしまう末っ子甘えん坊の顔は引っ込んでいた。

パシャリとその横顔を撮った。

各学年ごとの他人多脚リレー、団対抗綱引き、学級ごとの大縄跳び、そして団対抗選抜リレー。

三女の赤団の団長は、いつも学校へお迎えにいくと「柊さーん」と手を振って、車を全速力で走って追いかけたりしてくる(この間は高架下の声が響くところで「かわいすぎるやろー!!」と叫んだ)陸くん(仮)だった。まさか中三男子にファンが出来るとは思わなかったけれど、無邪気に手を振ってくれるのがとてもかわいい。そんな陸くんが、声が枯れるまで顔半分を口にして、空に向かって選手宣誓をしていて、とてもカッコよくて、ちょっと涙ぐんでしまう。

中学生の、まだ固まっていないゆらぎの中を生きているあのちょっと危ういような、それでもすごいエネルギーを秘めて戸惑っているような(それを彼らはあまり自覚していない)、ともするとすぐに大人びてしまう年代。あどけない一年生から、ちょっと引き締まった二年生、そしてそこに落ち着きや貫禄が見えだした三年生。

身長差で凸凹しながら肩を組んで、男女も関係なく「せーのっ!いち!にっ!いち!にっ!」と駈けていく。担任の先生も、全身団のカラーに身を包み、「いいよー!いいよー!」と往復して追いかけながら大声でサポートをして。ゴールをした瞬間、結果発表のあと、子どもたちと全力で「いぇーい!!」と飛び跳ねて喜んでいた。

先生ってこういう仕事なんだな。毎年毎年、こうやって子どもたちと全力なんだよな。
胸が熱くなって、笑顔がまぶしかった。

綱引きの縄の中心を司る、綱引きにただならぬ情熱をそそぐ河野先生(仮)の話は聞いていたけれど。練習のときから、合図前に綱を持つ子や、白い印よりも内側を持ってはいけないと言われていたのにもかかわらず、ちょっと内側を持ってしまった1番前の子に、真剣に怒っていたという。もう、でも、競技前に縄が用意されていく様子からすでに先生の目つきは変わり、決して中心をズラさぬ、という気迫が感じられて、練習の様子も目に浮かぶようで、失礼だけれど笑ってしまった。
「綱引きにどんだけ真剣やねん…」

けれども、「よーい、パン!」となれば、見ている私たちも手に汗握り、拳に力が入ってしまうほど、盛り上がる。歯を食いしばり、腕の筋肉がもりあがり、足を必死に踏ん張って踵を地面に突き刺して、「ひけー!ひけー!」と煽られながら懸命に引く。どの団も中心が15cm、30cmくらいの差ほどで決着がきまる接戦だった。
そりゃ、熱くなるわ、河野先生(仮)。
バカにしてごめんなさい。

二年生の大縄跳びの回し手は、かおちゃんの次男君、三年生の回し手に、陸くんがいた。
何度もひっかかっては、制限時間内(三分間)に何回跳べたかを競うため、回し続ける。
「せーのっ!1!2!3!4!5!…」

何度もやり直す姿に、見ている親たちからも
「大丈夫、大丈夫!」
「おちついてー!切り替えてー!」
「がんばれー!まだまだー!」
と声があがる。
三分後、回し手の男子はヘロヘロになって座り込んでいた。体操服の裾がもうちょっと出ちゃってるのも気にせず回し続けた彼らが、とてもキラキラして見えた。

最後の選抜リレーの、目の前を全速力で通過していく勇姿は、まぶしくて。追い上げたり、抜かれたり、抜き返したりのドラマに、キャアキャア声援があがる。
一位のゴールテープを切った白団のアンカーは、ガタイのいい三年生で、両腕をめいいっぱい広げて「ッシャァーーー!!」と雄叫びをあげていた。赤団が続き、ラスト青団のゴールでは全員から拍手があがっていた。

終始、望遠レンズで写真を撮っていたけれど、なかなかピントが合わなくて、気がついたら涙ぐんでいたのは、天気が良すぎて眩しいから、だけでは決してなかった。


「ただいまー!」
と帰ってきた三女はニヤついていて
「赤団!総合優勝!!」
とガッツポーズしていた。

中学生の、若いキラキラした全力は、
スカッと晴れて肌を焼く陽の光に、
よく似合ってかっこよかった。

夕飯前に、知らないうちに眠りこんでしまった三女の、手の甲には油性ペンで太く、

「必勝!!」

と書かれていた。
涙もろくってこまる。




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