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金魚。
─ただいま。
おかえりなさい。待ってたわ。
─疲れたよ、今日も。
そう、お疲れ様。
─お腹空いたよね、ごめんね。
赤や緑のフレークを、パラパラッと振り落とすと、水面から顔半分ほどはみ出して、パッパッと音を立てながら、勢いよく食べる。真ん丸な口と、真ん丸な目。
─相当、お腹空いてたんだね。
そうよ、あまり見ないで、 恥ずかしいわ。
─気にしないで。たくさんお食べ。
見ないでって言ってるのに。
パッパッと、上手に、あっという間に平らげる。気持ちのよい食べっぷりだ。
─なくなっちゃったね。もっと、食べる?
...。
─少しだけ。
そうね、少しだけ。
─食べ過ぎには気をつけないとね。
気をつけているわ。もちろん。 あなたがくれるのよ?
─そうだね。気をつけておくよ。
パラッと少しだけ、フレークを振り落とす。
パッパッと、小気味よく、真ん丸な口に吸い込まれていく。
─気持ちいい食べっぷりだね。
恥ずかしいわ。そんなに見ないで。
─君が食べている姿を見ていると、なんか元 気になるんだよ。癒しってやつ。
そうなの。変わったヒトね。
きれいに食べ終えると、ふぅわりと鰭をなびかせて、右へスィーと泳いで、クルンと向きをかえて、左へスィーと。
今日のお話をして。
─今日の?んー、とねー。
水槽に鼻(口?)をくっつけて、ガラス板越しにその鼻(口?)を撫でながら、今日の話をする。今日あったこと、起こったこと。
─猫がね、苦しそうで。病院行ってきたんだよ。ギャー!って診察室から聞いたことない声がきこえてね、可哀想だった。とても。
そうだったの。もう大丈夫なの?
─うん。ちょっと気をつけて見ていないといけないけど、きっと大丈夫だよ。明日は、家で仕事するね。
そう。え?
明日はあなたも家にいるの?
─うん。出たり入ったりするけど、家にいるよ。
そう。そうなの。嬉しい。
クルンクルンと身をよじるみたいに、ガラス板に身体を寄せる。ガラス板越しに、その綺麗な鱗を撫でる。
もう寝る時間?
─そうだね、そろそろ寝ようかな。
そうね。明日も早いの?
─うん、いつもと同じかな。
そう。私も寝るわ。静かにしてる。
─笑 君はいつも静かだよ。おやすみ。
おやすみなさい。
電気を消すと、1度だけチュパッと音がして、静かになる。
君が水の中以外でも、息ができるようになればいいのに。抱き上げて、その身体を直接撫でられたらいいのに。
繊細な美しい鰭を、シワにならないように綺麗な所作で。けれどきっと君は、ヒラヒラと仰いで、「暑いわ、水に帰りたい」と言うだろうから。
私はせめて、泳ぐ練習をする。
君のように、水の中で息をできないけれど。
君のような美しい鰭も持たないけれど。
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