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ヘルシンキサウナ紀行③Sauna Hermanni: 人との出会いに感謝する正統派公衆サウナ

私は銭湯が大好きだ。裸で湯に浸かっていると、そこにある緩やかなコミュニティの一部に慣れている気がして、自分がそこにいて良いのだ、と落ち着くことができる。

フィンランドの公衆サウナの本質も、そのサウナ室のクオリティに加えて、そこに根付くコミュニティにあるのではないか。そのことを身をもって感じたのがSauna Hermanniである。

日本人にとっても馴染みやすい正統派サウナ

1950年代に創業したSauna Hermanniは、いわゆる公衆サウナの位置付けである。これまで観光客向けのLoylyとハードボイルドすぎるSampasaunaをいただいてきた私だが、フィンランドの公衆サウナには特別な感情を抱く。

子供の頃、毎年夏になるとおばあちゃんに、ここが沖縄だよと言われて江ノ島に連れて行ってもらっていたのだが、小学校高学年になって初めて、沖縄は江ノ島ではないことに気がついた。その後社会人になって初めて沖縄の地を訪れるのだが、その時の気持ちに似ている。ずっと憧れていた、ホンモノの何かがある場所。

Sauna Hermanniは住宅街のアパートメントの地下にある。その階段を下ると受付があり、そこで12€を支払うとロッカールームの鍵とサウナ室でお尻に敷くタオルを渡される。

サウナへと続く階段

ロッカールームの中央にはテーブルが置かれており、ここでサウナの利用者がビールなどを飲みながら談笑している。その朗らかな光景は、まさに銭湯の脱衣所か休憩室で繰り広げられるものと似ている。フィンランドサウナのご多分に漏れず、ロッカールームの次の部屋はシャワー室になっており、ここで簡単に身を清める。いよいよ伝統ある公衆サウナとのご対面である。

Sauna Hermanniのサウナ室は、極めてオーソドックスな正統派サウナである。収容人数は見たところ10人程度だろうか。サウナ室の端にはikiストーブが鎮座しており、室内の温度を体感90度程度に保っている。言うまでもなくセルフロウリュスタイルであり、ikiストーブの横に座っている人が、3,4分おきに水をかける。過剰ではない、紳士淑女のロウリュだ。

サウナ室内の画像。日本でも見るような馴染み深いスタイル。引用:Sauna Hermanniのfacebook(Hermannihttps://www.facebook.com/saunahermanni/photos/a.631975740208944/5469177113155425/?type=3&_rdr)より

サウナがもたらす出会いの尊さよ

サウナ室でロウリュの音に耳を傾けていると、カタコトの日本語で「シツレイシマス」と言いながら入室してくる人がいた。聞くと、彼はドイツ人の建築家で、日本には2年ほど仕事で滞在していたことがあるらしい。ヘルシンキにはドイツから仕事で来たのだが、時差ぼけの解消のためにこのサウナに来たとのこと。

彼は日本語で、私は英語で話していると、追って入室してきたフィンランド人のおじさんが「日本語喋れるんですか?」と京都訛りの流暢な日本語で彼に質問する。

(ドイツ人)「ハイ、スコシデスガシャベレマス」
(私)「というか私は日本人です」
(フィンランド人)「おー、偶然偶然」

聞くと彼は京都で生まれ育ち、ヘルシンキの大学を卒業した後、東大の大学院にも留学していた日本文学・文化・仏教の教授とのこと。さらにサウナ室に、教授の友人でもある合気道の達人のフィンランド人が合流し、俄に我がホームとなる。

サウナ室を出ると、ダイニングテーブルのロッカールームで教授から「ビールを飲みませんか?よければそこの冷蔵庫に私のがあるので飲んでください」とありがたいご提案をいただく。のちに知ることになるのだが、公衆サウナの場合、アルコールを含めた飲み物や食べ物の持ち込みが自由の場合も多いのだ。

ロッカールームの中央に置かれたテーブル。利用者同士の交流が生まれやすい。引用:The Guardian_ Finland’s sauna scene as hot as ever(https://www.theguardian.com/travel/2016/jun/28/finland-helsinki-lapland-health-spa-sauna)より


お言葉に甘えてビールを片手にしながら、教授と合気道の達人、それにドイツ在住のインド人エンジニアが加わって、4人で談笑をする(ドイツ人建築家は帰宅した)。例えばサウナの神聖性。

(合気道達人)「フィンランド人にとって、サウナはとても神聖なものなんだ。特にスモークサウナは清潔でもあるゆえ、昔はサウナで出産をしたんだ。僕の母ちゃんもサウナで生まれたんだよ。それに僕は生後3ヶ月で初めてサウナに入ったのさ」

(教授)「僕の長年の友人は、サウナで死ぬことが夢だったんだ。彼は実際に、サウナ室で座りながら、まさに眠るように死んだんだ。それはとても素敵なことだと思わないかい」

他にも、日本やフィンランドの文化のこと、ウクライナの戦争のこと、フィンランドの政治や経済のこと。こうした偶然の出会いをもとに交流が生まれることが、公衆サウナの魅力だろう。

再度サウナ室に入ると、教授がストーブの横に座ってロウリュをしてくれる。彼のロウリュは、水を汲んだ柄杓をストーブの上に水平状態におき、左右に微細に動かしながら、藤岡弘、のコーヒードリップのように徐々に徐々に水滴を垂らすものである。室内はじんわりと暖かくなり続け、ストーブからは消え入るようなロウリュ音が響き渡り続ける。教授っっっ、エロすぎます。

サウナ室を出て、みんなで建物外にあるテラスで休憩をする、各々、タバコとビールを片手に。5月末でも、夕方のヘルシンキは風が吹くと肌寒い。

「それでも、もうすぐここにも夏が来るんだ。夏は良いよ。暖かくなるとフィンランド人の表情は変わるんだ。みんな笑顔になるんだ」

冷たい風に吹かれて整いながら、いつかまた、できれば違う季節に「戻ってきたい」と思わせてくれる、素敵なサウナと出会いだった。

まとめ

サウナ室はオーソドックスな形態であり温度も高すぎないため、誰でも気持ちよく楽しめる場所だと思います。かつ歴史ある公衆サウナで、ローカル民もたくさん楽しんでいる、アットホームな場所です。

ロッカールームに大きなダイニングテーブルが1つという構造ですので、ビールを持ち込んで風呂上がりに飲んでいれば、そこにいる誰かと交流
をしやすいとも思います(私の場合はやや運が良すぎました)。

なおその後も、サウナの定番メニューらしい(?)きゅうりのピクルスの、サワークリームとはちみつ添えをご馳走いただいたり、最後はフィンランド料理屋さんに連れて行っていただくなどしました。この出逢いに感謝です。

ごちそうになったのピクルス サワークリームと蜂蜜添え(食べかけ)


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