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P・コブリー 文/L・ジャンス 絵著『記号論(FOR BEGINNERSシリーズ)』を読んで

 フェリックス・ガタリの記号論を理解するためにP・コブリー 文/L・ジャンス 絵の『 記号論(FOR BEGINNERSシリーズ)』現代書館を読んでみました。今回の記事はその備忘録として、大事だと思ったポイント+αを書いていきたいと思います。

 まずはじめに、古代の時代では身体の症状が記号の典型だったそうです。病になった人の熱で赤くなった顔を観察して、その徴となるなるものを記号としていたようです。そして、ストア派とエピクロス派(前300年頃のアテナイ)で起こった「自然的な記号(自然のいたるとこころで自由に発生する記号)」と「規約的な記号(コミュニケーションの目的として意図された記号)」の論争があったそうです。その後、アウグスティヌスが規範的な記号についての理論を展開していったそうです。そして、それをウィリアム・オッカムが広げていったそうです。本格的な記号論(semiotics)は、ソシュールとバースという2人から始まったとされています。

★ソシュール(1857-1913)
『一般言語学講義(著作ではなく講義ノートを集めたものを刊行した本)』を残した。言語記号をシニフィアンシニフィエという二項物で定義し、言語の条件といえる共時的な言語学を追求した人です。

共  ↓
時  ↓
的  ↓
 通時的(時間経過とともに変化する)

↑ シニフィエ (記号表現、能記)  ↓
_________________
↑シニフィアン(記号内容、所記)↓

ランガージュ 
パロール(発話行為)
ラング(記号間の差異の体系)

記号学(semiology)はヨーロッパ系の、記号論(semiotics)はアメリカ系の理論と結びつく。ソシュールは記号学を使い、その後は、記号論という言い方が広まったそうです。

★チャールズ・サンダース・パース(1839-1914)
苦難を抱えた人生のなかで、三項理論を磨き上げ自らの記号論(semiotics)を構築した人です。

記号/表象         対象
(representamen)                     (object)
\              /
  \          /
    \                   /
      解釈項(interpretant )
※対象には、直接対象と力動的対象がある。

直接的解釈項|力動的解釈項|最終的解釈項

解釈項はある記号へと転換し、その記号/表象はさらなる対象への関係性のなかにあり、その対象は別の記号の解釈項をもたらす、ということが無限に続くのである。

P・コブリー 文/L・ジャンス 絵『FOR BEGINNERS 記号論』現代書館 p. 25より引用

※こうした潜在性は無限の記号過程と呼ばれ、デリダを理解するために役に立つ。

また、パースは現象には、三つのカテゴリーがあると考え、第一性は単にある可能性、第二性は関係が諸事物およびその他の事物との共存から構成されていることが明らかになる事実、第三性は精神的要素であり第一のものを第二のものとの関係にもち込むとしている。

___| 性質 | 事実 | 法則 |
表象 |性質記号|存在記号|法則記号|
対象 | 類像 | 指標 | 象徴 |
解釈項| 名辞 | 命題 | 論証 |
図︰パースの記号類型

P・コブリー 文/L・ジャンス 絵『FOR BEGINNERS 記号論』現代書館 p.31より引用

★ルイ・イェルムスレウ(1899-1965)
デンマークの言語学者で、コペンハーゲン学派の創設者のひとり、ソシュールの勧めていた「社会のなかでの記号のあり方を研究する科学」に乗りだし、ラングを記号体系のレベルまで引き上げようとしました。そして、記号そのものの外側からやってくるものを考えた人です。『言語理論序説』を刊行しました。

「すべての記号はそれら自体のそこだけの体系の原理ではなく、より高次の組織化の原理に従っている」

P・コブリー 文/L・ジャンス 絵『FOR BEGINNERS 記号論』現代書館 p.39より引用

連辞(横方向の物語の継起)
範例(縦方向の諸関係の束)

外示(直接的・外延・明示)デノテーション
共示(間接的・内包・暗示)コノテーション

表現(expression)シニフィアン
内容(contenu)シニフィエ

実質(テクスト)記述
形式(ラング)メタ記号

音韻論(語彙論)外示記号・範例的
意味論(音声学)メタ記号・(範例的)
統語論(形態論)外示記号・連辞的

記号は、物質的な実体(シニフィアン)と精神的な概念(シニフィエ)の関係を含むだけでなく、その記号自体とそれ自体の外側にある記号の諸体系の間の関係も包含している。

P・コブリー 文/L・ジャンス 絵『FOR BEGINNERS 記号論』 p. 40より

★ロラン・バルト(1915-1980)
1974年に『映像の修辞学』 を刊行した、構造主義と呼ばれる人の中でいち早くイェルムスレウの考えを取り入れた人です。

「言語的な」メッセージ
「コード化された類像的な」メッセージ
「コード化されていない類像的な」メッセージ
___________________

1. シニフィアン 2. シニフィエ
3. 表示的記号
4. 共示的シニフィアン  5. 共示的シニフィエ
6. 共示的記号

P・コブリー 文/L・ジャンス 絵『FOR BEGINNERS 記号論』 pp. 47-51より

_______________
    コンテクスト
送りて メッセージ  受け手
    接触
    コード
_______________
    指示的
主情的 詩的    動能的
    交話的
    メタ言語的

P・コブリー 文/L・ジャンス 絵『FOR BEGINNERS 記号論』 p. 147より

★ロマン・ヤコブソン(1896-1982)
ロシア人の言語学者で、プラハ言語学サークルという学派の創設メンバーであり、副代表を務めた人です。詩学や文学についても研究しています。

★ジャック・ラカン(1901-1981)
『エクリ』を刊行した、アルジェリア生まれのフランス人精神科分析医で、哲学者です。人間の主体における記号体系に対する関係を考えた人です。

★レヴィ=ストロース(1908-2009)
『野生の思考』『構造人類学』を刊行した、ヤコブソンの音素の研究、アンドレ・ヴェイユ(シモーヌ・ヴェイユの兄)の群論、シュール学派の言語学、フロイト学派の無意識といういくつかの考え方を取り入れながら神話研究を展開した人類学者です。

★ジャック・デリダ(1930-2004)
『エクリチュールと差異』を刊行した、差延(differance)という概念を提唱した。

(終わり)

イェルムスレウに関心がある方はこちらの文献が参考になるかと思います。訳はソシュールの翻訳もされている町田健さんで安心して読めます。

参考文献
P・コブリー 文/L・ジャンス 絵(2000)「FOR BEGINNERS 記号論」現代書館

小林卓也(2013)「ドゥルーズ哲学と言語の問題」京都産業大学学術リポジトリ

平田公威(2021)「『千のプラトー』における言語学受容について」フランス哲学・現代思想

山森裕毅(2023)「フェリックス・ガタリにおけるイェルムスレウ言語理論の理由と展開」イェルムスレウとフランス現代思想

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