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正月はこたつで『SFマガジン』を読んでましたという話。

皆さんは正月をいかがお過ごしでしょうか。私はあいも変わらずこたつで読書でございます。今月も『SFマガジン』が出たようですね。
ミステリとSFの交差点ということですが、私はミステリというものに一向くわしくありません。なので今月号は残念ながらハズレの感を強くする次第でございます。
正月そうそうですが、世の中には不幸な事件が続き、SFマガジンも暗い話が多かったです。おみくじは『凶』でした。踏んだり蹴ったりです。餅でも食べましょう。


ここはすべての夜明け前 間宮改衣

あらすじ
〈わたし〉は幼いときから胃下垂で食べることが苦しく、夜もうなされて眠れないでいた。そんなあるとき〈わたし〉は父のすすめで融合手術をうけることになって、機械の身体を手にすることに。身近な家族が亡くなったいま、〈わたし〉は家族史の編纂をすることに決めて、過ぎ去った時間を思い返していく。

レビュー
第11回ハヤカワSFコンテストの特別賞受賞作です。
ほぼ全編にわたってひらがなが使われており、読みづらい文章が続きます。『アルジャーノンに花束を』みたいな感じです。
文章からはほとんど身体性を感じず、〈わたし〉の考える夢や空想、登場人物との関係性の描写に当てられていて、アクションの描写がない。
ひらがなの文章が、かえって重たく鬱陶しい〈わたし〉の感覚を想起させるので、読むのがとにかく大変です。
〈わたし〉はどうやら父親から虐待をうけているらしく、行間からそれが伝わる。
〈わたし〉の慰めとなるのは、動画サイトで出会ったボーカロイドの曲『アスノヨゾラ哨戒班』とダーレン・アロノフスキー監督の『ザ・ホエール』に出てくるブレンダン・フレイザーのセリフ。
ボーカロイド曲は実際に存在するもので、他にもいくつか名前が出てくる。ポケモンはソード、シールドまでやっていたとか、作者がちょっとニコニコ動画世代っぽい感じで、リアリティを出していく。

〈わたし〉は結局、甥っ子と付き合うことになり、身体が機械である〈わたし〉は見た目25歳のままで、赤ちゃんのころから面倒を見てきた親戚の子と恋人同士になるのです。でもそれが父親から受けたネグレクトを反転させるものでしかなかったと気がつくのが、ひねりのある展開でしょうか。

かなり重い小説です。主人公がいい子であるばっかりに、かわいそうという忌まわしさの方が勝ってしまいます。自業自得だよな……と思わせるような性格でもないし、カタルシスのあるラストかユーモアのどちらかがあれば、読みやすいものになるのだけど。そこのところ容赦ない。それでも描かれるテーマは真摯なものだし、そこのところのチグハグさが選考会で意見が割れる原因なのではないか。

detach 荻堂顕

『ループ・オブ・ザ・コード』の作者による長編新作のプロローグ。
まだ謎めいた世界観の一端しかわからず、今月号で一番ワクワクさせられました。
謎の〈棺〉を運ぶ六人の男女が焚き火を囲むところから物語が始まる。外の世界には正体不明の現象?怪物?が蠢いていて、棺のような形をした機械でそいつらを遠ざけることができるようだ。
主人公の女はロバDonkyと呼ばれ、傍観者バイスタンダーと呼ばれる特殊能力を持っている。その彼女がアナグマと呼ばれる男と、まだ正体が分かりませんが、とある組織に引き合わされ、崩壊した世界を元に戻す計画に加担するよう誘いかけられるところで終わります。気になる。

魂婚心中 芹沢央

あらすじ
ブラック企業に勤める律子は、ある日偶然開いたアプリでネット配信者の“浅葱ちゃん”の動画を目にする。
律子は彼女に自分のモヤモヤした気持ちをずばりと言い当てられたことがきっかけで、会社を辞め彼女の推しになる。
世間ではkonkonという“死後マッチングアプリ”が流行していて、死んだ日が同じ人どうしで葬式をしたあと、結婚するという文化が常識になっていた。律子は浅葱ちゃんに夢中になるあまり、彼女のプライベートまで突き止め、konkonのアカウントも発見してしまう。
律子のなかに、推しと死後に結婚できる可能性が芽生えてくる。

レビュー
死後マッチングという意味わからん設定はまあ置いておくとして、これも『ここはすべての夜明けまえ』と同じでけっこう病んだ話です。
主人公の律子は、他人とズレた感覚を持っていてそれを隠すために、他人の真似、もとい空気を読むのがうまい大人になっていきます。
それ故、ブラック企業に文句も言わず勤めることになるのでしょう。
そこに現れるのが“推し”のアイドルというわけで、正直俺は20代だけどこの“推し”という感覚が全く理解できない。
なんというか掲載短編のほぼ全部が他人との関わりに忌避的で、読んでてツラい。

恋は呪術師 大滝瓶太

あらすじ
刑事の地上歩ちのうえあゆむは、鉄の弓矢による連続殺事件を調査中だった。
監視カメラに映った男を犯人だと断定するも、そいつの姿は地上以外だれにも見えないようだった。
その男の正体はなんと天使で、犯人はキューピッドが使う恋の弓矢を鉄の弓矢にすり替えて、犯行を重ねているようだった。
地上は堕天した天使とともに、パパ活をしている売り出し中のアイドルを容疑者に絞って、囮捜査を行うことに。
彼女にマッチングアプリで近づき、そこに現れた、恋を成就させようとしている天使もろとも逮捕してしまおうという計画だったが……。

レビュー
主人公の刑事地上は小学生のとき、天使がクラスの男の子に光の矢を放って恋心を操作して植え付けた現場を目撃しており、それが恐怖となっている。恋をすることが自由意志ではなく、天使による支配なのではないかという疑いを拭うことができないからだ。
地上が接触する、容疑者の渡辺詩織もまた天使がみえる体質で、地上と同じ強迫観念を抱えている。
最終的に彼女は天使によって矢を放たれ、主人公のおっさん、地上のことを好きになるように仕向けられる。それでも抵抗する彼女は、自ら命を絶ったのだった。という話。
これもまた他者との関係、恋愛関係において忌避的な感じがあって、今月号はなんだか病んだ話が多いですね?

あとがき

もう一編、読み切りが載っていたのですが、内容が理解できず感想を断念。ダメだこりゃ。
金延幸子のインタビューとかもあって、フィリップ・K・ディックとのエピソードなんかが載っています。まさか『ヴァリス』3部作を読み解くカギが『み空』だとは……。先週『PERFECT DAYS』を観て、思いっきり感化されたのですが、サントラのなかに金延幸子の『青い魚』がありましたねー。もう『み空』を買えという天のお告げにしか聞こえません。
来月号は伝説のBL特集の第二弾がくるようです。待機待機。

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