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読書感想文:「コンビニ人間」/村田沙耶香

今日も読書感想文を。
この次に読み始めた本がハイパー長編なので、しばらくはないから安心してください。読書感想文アカウントになったわけではないですから。笑

ぼくは『流行っているもの』や『話題のもの』にすぐに飛びつきたくない、めんどくさい性格だと思う。メディアから与えられた情報にすぐ飛びつくようなものではなく、自分で探し当てた情報のほうを大事にしてるような。
それでも実は興味を持っていて、話題になったずっと後になってやっと自分のタイミングで作品に触れる、というズルさもある。我ながらめんどくさいなと思う。

「コンビニ人間」は、アメトーークというバラエティ番組の『読書芸人』という企画で紹介され、爆発的にヒットした作品である。出演した芸人さんの殆どがこの作品を勧めていたのだ。
読んでみて、なるほどと納得した。これは勧めたくなる。

みなさまは、世間からの無遠慮な詮索をされたことはないだろうか(特に日本はそういうの強いんじゃないかな)。

「恋人はいるの?」
「いつも家で何してるの?」
「結婚する気あるの?」
「子どもは?」

『右に倣え』とか『出る杭は打たれる』とか、普通じゃないもの=異常だという考えが我々の価値観の根底には蔓延っている気がする。
だから「あなたのためを思って」と言いながら、他人のプライベートに土足で踏み入り、ぐさぐさと言葉のナイフを笑いながら突き立てて、めちゃくちゃにして去っていく。
ただそれは、何が起こるか分からない現代ではそうしないと自分の身が危ぶまれるからなのだろう。「詳細が不明なもの」を自分の周りに置いておきたくないのだ。

『退廃芸術』というものがある。
これを語るだけでおそらく一冊の本が出来るくらいのものだから超絶シンプルに書くと、「理解できないものだから、規制する」という考えだ。
いやこの作品わけわかんねーわ、脳の病気だろ。というあまりにも暴力的な思想によって前衛的な芸術が弾圧されたのだ。
その弾圧された芸術作品の総称が「退廃芸術」で、最終的には政府に没収され、焼却されたりもしたそうだ。
(超絶シンプルに説明したものだから抜けがあったらごめんなさい)

そんなふうに、意に染まないものを徹底的に排除する思想が、今でも往々にしてある。口では「個性を大切にしよう」と言いながらも。

「コンビニ人間」は、そんな世間の…いや世界の矛盾と真っ向から戦う覚悟をしたひとりの女性の物語である。
彼女が進んできた道、そして進む道は、この時代で生きるには相当な傷を負うであろう茨の道だ。それでも、彼女は自分の中の「普通」に従って生きていく。

後半くらいから、読んでいてなんとも言えない絶望感を感じたけれど、ラストシーンがとても良かった。
ただ、あれをハッピーエンドと言って良いのかはわからない。でも、そう思えるような思考を持つことがあのラストをハッピーエンドに変えるのかもしれない。
おそらく、読む人によってラストの解釈が変わるだろうな。

荒野に吹く一陣の風のような、とてもかっこいいラストだった。

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