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#8新潟の海と青い音楽

とても簡単に
僕たちには聞こえていた 見えていた
空をわたる青い音楽
夜の魔人の黒いマント
今は 少しだけ
骨が折れる

まだ夜が明けない日本海をのぞむ電車に揺られながら、14才のころに読んだ一文を寝不足のぼんやりした頭で思い出していた。

感受性は失われていく。この瞬間にも。

分類し、細分し、体系化し、言語化して、
大人になるために、生きていくために、僕が得た解像度の高い真実は、いつの間にか大好きだった憧れから光を奪っていった。

世界を描くための画材があるなら、かつての僕は想像力という名の絵筆ひとつで世界を捉えようとしていた。
今は知識や経験や論理といった、たくさんの武器を手に入れた代わりに、世界からまばゆい色彩をはらんだ光と、無限に思えたキャンバスの余白を、僕は失い続けている。

愛すべき何かに、近づくために遠ざかる。そんな矛盾を抱えながら今日も僕は筆をとるのだろう。
いつか死んでいく憧憬が、少しでも永らえることを願いながら。

12月の北陸の朝は凛とした冷たさに覆われている。
残雪の残る海岸と濃い藍色が広がる海原、その上に口を開ける虚空には、なみなみと優しい闇が広がっている。

重い瞼の帳が降りる中、
月が、青い音楽に踊っていたのだけをずっと覚えている。

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