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ある日突然障害者に。あと一歩で障害年金を受給できなかった『以外な落とし穴』

こんにちは。
社会保険労務士のしふらです。
先日Twitterでnoteのテーマについてアンケートを実施させていただきました。

沢山の投票ありがとうございました!
ということで、今回のnoteは一番投票の多かった「個人的に印象に残った相談事例」と「今後の年金制度について」を紹介します。

第1回「ある日突然障害者に。あと一歩で障害年金を受給できなかった『意外な落とし穴』」
第2回「学生時代の国民年金、支払っていましたか?覚えていない人は要注意。」
第3回「『俺は一生働くつもりないから。』父が死んで残された年老いた母と統合失調症の息子」
第4回「友人に『あなたは年金貰えないよ』と言われ請求せず、1000万円時効消滅したおばあちゃん」
第5回「大きく変わる年金制度の仕組み。私達の将来の年金は?」

私は普段、社労士事務所で年金相談をメインに担当しています。その中で、制度を知らなかったが故に本当に勿体ない結果になってしまう方がいらっしゃいます。そこで、そんな事例の中でも特にお伝えしたい事例を第1~4回に分けて4事例紹介します。今回はある日突然倒れ、次に目が覚めた時にはストーマ(人工肛門)造設患者になっていた方の事例です。今回の事例以外に、近年増加傾向にある、仕事や対人関係等による精神障害の方場合にもありがちな落とし穴を紹介します。自分や家族、身の回りの方に当てはめて考えていただき、何かの気づきになれば幸いです。

ある日突然障害者に。あと一歩で障害年金を受給できなかった『以外な落とし穴』

相談者:Sさん(30代女性・独身・無職)
相談内容:「数年前に人工肛門を造設したので障害年金の請求をしたい」
Sさんはハキハキ話す明るい印象の方で、人工肛門を造設することになる直前まで気になる不調はなく、とても元気だったそうです。短大卒業後、会社勤めと無職の期間を繰り返していましたが、当時の会社の勤務中に突然倒れ、次に目が覚めたときにはストーマ(人工肛門)造設患者になっていました。それまでSさんは都会で一人暮らしでしたが、ストーマ造設後は生活面での不安が大きくなり両親の住む田舎に戻ってきました。働くことに不安があり、両親も高齢になり悩んでいたところ、障害年金が請求できることを知って相談にきたということでした。私はこの時点で、障害厚生年金の3級(最低保障年額58万)の請求になりそうだな、と思っていました。

障害年金制度のポイント

障害年金を請求する上で見るポイントは3つあります。
①初診日に国民年金・厚生年金のどちらに加入していたか
②認定日に障害等級に該当しているか
③保険料の納付要件を満たしているか

障害年金は通常、その傷病で初めて病院にかかった日『初診日』から、
1年6ヶ月経った日『認定日』に障害等級1~3級に該当した場合に支給されます。初診日というのが重要で、初診日に国民年金に加入していた場合は障害基礎年金(1~2級)。会社勤め等で厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金(1~3級)となります。金額的には障害厚生年金の方が有利な金額になっています。もしも精神的な不調や病気・怪我で退職を考えている方は、在職中に初診しましょう。

しかし、今回のSさんのような人工肛門の造設の場合は特殊です。通常の認定日は初診日から1年6ヶ月経った日なのですが、人工肛門の場合は『人工肛門の造設から6ヶ月経った日』が認定日になります。しかも、通常は審査によって等級が決まりますが、人工肛門の造設の場合は3級に認定されることになっています。

先程の3つのポイントに当てはめてみると、
Aさんは、会社の在職中(厚生年金加入中)に倒れ、人工肛門を増設したため障害厚生年金の3級が確定していることになり、①と②を満たしています。

それでは③の保険料の納付要件はどうでしょうか。
保険料の納付要件は次の①か②のどちらかを満たす必要があります。
①初診日の前日において、初診日の2カ月前までの直近1年間に保険料の未納がないこと(初診日が令和8年前、65歳未満であること)
②初診日の前日において、初診日の2カ月前までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること
簡単にいうと
①初診日より前の一年間に未納がないか
②今までの全加入期間のうち、未納期間が3分の1を超えていないか

ということです。ちなみに保険料免除期間とは、保険料免除制度を利用して納付した4分の1、半額、4分の3免除期間と全額免除期間のことを言います。

「Sさんは国民年金の期間が多かった」

話を聞いてみるとSさんは、最後の会社に就職するまでは職を転々としており、国民年金の期間が結構長いとのことでした。保険料は、厚生年金加入中であれば会社と被保険者の折半負担になり、毎月のお給料から天引きされるので未納になることはありません。しかし、国民年金の場合は、配偶者の扶養でない限りは毎月自分で納める必要があります。そこでSさんに国民年金の納付状況を確認してみると、過去に何度か免除の申請をしたけれど漏れがあるかもしれないと言います。
後日Sさんの記録を調べてみると、直近一年間の未納がありました(要件①)。そこで全加入期間の未納期間(要件②)を調べると、20代前半は未納期間が多いものの、後半から直近にかけては殆ど免除申請をしており、保険料納付済み期間と保険料免除期間が合わせてギリギリ3分の2以上ありました。

以外な落とし穴

しかし、それで安心はできません。保険料免除期間には注意しないといけない点があります。それは、いつ免除申請をしたのかということです。納付要件①②をもう一度見ると、「初診日の前日において」という文言があります。これは、初診日の前日時点において未納がないかを見るということです。なので、免除申請をしたのが初診日よりも後だった場合、その期間は未納の期間として扱われてしまうのです。Sさんの場合、20代後半から直近までは免除申請がされていましたが、最後の免除申請をした日が初診日よりも後でした。これにより計算したところ、納付要件がたった2ヶ月だけ足りず障害年金を請求することができなかったのです。

私が悪かったんですと哀しく笑うSさん

障害年金を請求する上で重要な納付要件を満たすことができず、ギリギリのところで障害年金を請求することすら出来なかったSさん。何度計算した所で、2ヶ月足りないという事実にとてももどかしい気持ちでした。この2ヶ月があれば、最低でも年額58万円が受給出来て生活の足しになったでしょう。免除の申請もしていたのに、どうしてあげることも出来ず事実を説明するしかありませんでした。Sさんは「いいえ、年金をしっかり納めなかった私が悪かったんです。なんとか頑張って生きていきます。」と笑って言ってくれましたが、免除制度を知っていればこんなことにはならなかったかもしれません。自分の身を守るという意味でも、もし家族でも自分でも未納の期間があったり、保険料が払えなくなりそうな状況になった場合には、免除や納付猶予という制度があり、利用することで将来の年金に反映してくるということを忘れないで欲しいです。

将来損しないためにはどうしたら良いのか

今回の事例のポイントは、保険料の未納と保険料免除制度でした。保険料免除制度とは、前年の所得が一定基準額以下だったり、失業した場合等、国民年金保険料を納めることが経済的に困難な場合に保険料の納付が免除になる制度で、過去2年まで遡って申請することが出来ます。全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除があります。保険料未納の場合と違って、65歳からの年金額にも反映されます。未納のままになっている期間はありませんか?保険料が1年間未納になると将来の年金が年額2万円減ります。仮に日本の平均寿命の84歳まで生きるとしたら38万円変わってきてしまいます。これを例えば全額免除申請しておくと、1年間の保険料全額免除で減る年額は1万円で済みます。保険料を納めなくても、1万円の年金が受給できるのです。しかも、今回の場合のように障害年金を請求することになったとき、未納を理由に請求できないという悲しい結果になりません。最近の相談では、職場でうまくいかず精神的に不安定になり、職に就いたり辞めたりを繰り返す方が増えている印象です。この場合も、要件に該当すれば精神の障害として障害年金を請求できますが、未納の期間があると請求自体が出来なくなってしまう場合があります。将来損しないために、保険料免除という制度があることを忘れないでください。

保険料免除制度や障害年金の制度に関してはお伝えしたいことが沢山ありますが、すべて説明するととても長くなってしまうので今後のnoteでその都度お話していきます。次回は、第2回「学生時代の国民年金、支払っていましたか?覚えていない人は要注意。」を投稿させていただきます。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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