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友人に『あなたは年金貰えないよ』と言われ請求せず、1000万円時効消滅したおばあちゃん

こんにちは。
社会保険労務士のしふらです。
今回は、前回から引き続き、Twitterでnoteのテーマについてのアンケートで一番投票の多かった「個人的に印象に残った相談事例」と「今後の年金制度について」になります。

第1回「ある日突然障害者に。あと一歩で障害年金を受給できなかった『意外な落とし穴』」
第2回「学生時代の国民年金、支払っていましたか?覚えていない人は要注意。」
第3回「早く手続きしていれば。父が死んで残された年老いた母と統合失調症の息子」
第4回「友人に『あなたは年金貰えないよ』と言われ請求せず、1000万円時効消滅したおばあちゃん」
第5回「大きく変わる年金制度の仕組み。私達の将来の年金は?」

私は普段、社労士事務所で年金相談をメインに担当しています。その中で、制度を知らなかったが故に本当に勿体ない結果になってしまう方がいらっしゃいます。前回は、統合失調症の息子と母親の事例でした。今回は、老齢年金の請求が遅れて時効消滅してしまった方の事例です。年金が貰えないと思っていても、65歳になったら必ず年金事務所に確認しましょう。

友人に『あなたは年金貰えないよ』と言われ請求せず、1000万円時効消滅したおばあちゃん

相談者:76歳女性Rさん(既婚・無職)
相談内容:「昔、保険料を未納にしていた期間があり、友人に「あなた将来年金貰えないね」と言われたのを真に受けて、60歳になっても請求ませんでした。どうにかして受給することはできませんか?」

Rさんは私の高校時代の友人の祖母で、友人から頼まれて相談に乗ることになりました。友人宅にお邪魔してRさんに詳しい話を聞いてみると、Rさんが結婚する前、国民年金の保険料が払えず未納になった期間が2年くらいあったそうです。当時の友人に「あなたは将来年金が貰えないね」と言われたのを真に受けてしまい、年金の手続き案内が届いたときも自分は関係ないからと手続きをしなかったそうです。しかし、友達の間でも年金を受給していないのは自分だけだったので、もしかしたら自分も貰えるのかもしれないと思い相談するに至ったとのことでした。

老齢年金の受給要件とRさんの記録

老齢年金は、大きく分けて3つあります。
①特別支給の老齢厚生年金(65歳前の年金)
②老齢基礎年金
③老齢厚生年金

いずれも受給するには、保険料を納付した期間や免除をした期間等(受給資格期間)が10年以上あることが要件になります。平成29年7月以前は、この資格期間が25年必要でしたが、同年8月から10年に短縮されています。そして①の場合は厚生年金加入期間等が1年以上③の場合には厚生年金加入期間等が1ヶ月以上あることが要件です。

まずは、Rさんの今までの加入歴を確認しました。すると、Rさんの場合は結婚前に8ヶ月未納があったきりで、他は問題なく納められていました。厚生年金の期間もあったので、年金の見込額は90万円ほどありました。

Rさんの年金は遡って受給できるのか

Rさんは現在76歳ですので、60歳まで遡ると16年分の年金を請求していなかったことになります。さて、Rさんは年金の請求手続きをすれば過去に遡って全ての年金を受け取ることができるのでしょうか。答えは、実は全てを受給することはできません。年金には5年の時効があります。この時点から遡ると、71歳より前の11年分の年金は時効によって消滅してしまいます。総額約1000万近くを失ったことになります。

繰下げ請求で最大限に

それでは1000万円をただ諦めなければならないのかというと、一つの選択肢があります。それは繰下げ請求をするということです。繰下げ請求とは、本来65歳から受給できる年金を66歳以降に請求することで、増額した年金を受給できる制度のことをいいます。最大70歳までの繰下げで、42%の増額した年金を受給することができます。ただし、他の公的年金を受給している場合等、繰下げ請求が出来ない場合もあります。

Rさんの場合は繰下げ請求の要件を満たしていたので、70歳時点で繰下げ請求をすると、90万円の42%である約38万円が増額された年金を受給できるようになります。つまり、70歳から年額約128万円の年金を受給できることになります。

繰下げ請求をすることで、実質時効消滅する期間というのが60~65歳まで(年額90万)と、70歳~71歳まで(年額約128万)の6年間で済みました。金額にすると、時効消滅した分の金額は約578万になります。

Rさん「一回でも未納があると年金は貰えないと思っていた」

その後、Rさんに時効消滅の説明をして年金の請求手続きをしました。約578万円が時効消滅してしまったとはいえ、過去5年間分の年金約640万円を遡って一括で受給できることになったので喜んでいました。

今回の事例は、年金の知識が無かったために友人の言葉を鵜呑みにしてしまったことが原因です。Rさんは、一回でも未納があると年金は貰えないと思い込んでいたそうで、自分で制度について調べたり年金事務所に相談することは考えず、初めから諦めていたそうです。年金の時効は一月ずつ消滅してき、手続きが遅れれば送れるほど時効消滅してしまうので、このまま何の疑問も持たなかったら本当に勿体ないことになっていました。

それでも、60歳の時点で請求していれば何の問題もなかったと言えます。年金機構からは毎年必ず1回誕生月にねんきん定期便が送られてきます。年金が受給できる歳になれば請求の案内も届きます。届いたら、書類の中身をしっかり確認して下さい。今まで自分が納めた年金や加入記録、年金見込額等が載っています。もしも加入期間等の誤りがあれば訂正が必要になりますが、何年も経ってしまうと記憶も曖昧になってしまいます。届いた時点で自分が将来どんな年金をどのくらい受給できるのか、と興味を持って見るようにしてみて下さい。年金制度は正しく理解して利用していきましょう。次回は、第5回「大きく変わる年金制度の仕組み。私達の将来の年金は?」を投稿します。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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