ニセコバブルから見えてくる介護の未来
1.カツカレー3,200円の「ニセコバブル」
以下のタイトルのTBSの報道には考えさせられました。
外国人観光客が殺到している北海道ニセコのアルバイトの平均時給は1,742円と、東京の1,481円を上回っているといいます。なにしろ、ニセコではカツカレーが3,200円もするというのですから。
ニセコでは、こうした賃金の高い観光業などに働き手が流れ、ヘルパーなどの介護業界は人手不足で危機的な状況になっているというのです。
2.日本の途上国化
大西広(慶應義塾大学名誉教授)さんは、アベノミクスの異次元の超低金利、超円安誘導等々の政策の根幹をなす戦略は「途上国化戦略」だと指摘しています。
超円安で価値の下落した日本に外国人を呼び込み(インバウンド)、外国人に高級ホテルに泊まってもらい、高級料亭で美味しいものを食べてもらい、沢山、日本のものを買ってもらい、外国人がリッチに国内を旅行してもらって、日本人はその外国人に仕え、サービスを提供し、お金を使ってもらうよう努力する。
まるで、途上国のようです。
大西広さん曰いわく「日本は意図的に途上国になろうとしている」のです。
当然、外国人相手の商売の労働者の賃金は上昇するけれど、その労働者を支える、介護のような再生産労働者の賃金は低いままに留め置かれる。市場原理的にはそうなるしかないと思います。
ニセコのような状況は多かれ少なかれ日本全国に広まっていくかもしれません。
3.なぜ介護労働の賃金が安いのか
介護労働者不足の原因はもちろん、その賃金の安さにあります。仕事がきついのに賃金が安すぎるのです。
そして、介護の賃金が安いのは、介護が女の仕事、家庭内労働、つまり、再生産労働 だからです。再生産労働とは一般的な生産労働を下支えするものですので低賃金となってしまいます。
例えば、8時間働いて1万円を稼ぐ者が、自分が働いている間の親の介護サービス(8時間)を頼むとしたら、自分の稼ぎの1万円以下でないと働く意味がなくなります。このように市場に任せれば、再生産労働は一般的な生産労働の賃金と同じレベルになることができません。
生産労働を支える再生産労働である介護や保育は、社会のコモン(共有財産)です。ですから、社会の助け合いの仕組み、つまり、社会保障として位置づけられ、国家が責任をもって賃金保障すべき産業領域といえるのではないでしょうか。
4.人口減少が介護労働者不足の根本原因
TBSのニュースでも報じられていましたが、2022年には、新たに介護に就労した人数より、介護を辞めた職員が上回り、介護労働者が前年より6.3万人(▲1.6%)減ってしまったといいます。
この介護の人材不足は、そもそも、日本の人口減、特に、生産年齢人口の減少がその根本原因だと思います
2020年、1億2,615万人であった日本の人口は、2045年には1,735万人も人口が減り、1億880万人となりとなり、2056年には1億人を割って9,965万人となり、2070年には8,700万人になるものと推計されています。
生産年齢人口(15~64歳人口)は、1995年の国勢調査では8,726万人でピークに達しましたが、その後、減少局面に入り、2020年国勢調査によると7,509万人となっており、25年間で1,217万人も減少(約14%の減少)してしまっています。
2024年の生産年齢人口推計は7,346.6万人ですが、10年後の2034年では6.811.1万人となり、10年間で535.5万人も生産年齢人口が減少(7.2%の減少)します。
10年間でほぼ北海道の全人口と同じくらいの生産年齢人口が失われてしまうのです。
介護労働者が減るのは当たり前なのです。生産年齢人口の推計からすると、介護労働者も自然減になるのが道理です。
5.「人口ゼロ」の資本論
大西広さんの『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』という著書には、日本は若者が貧しく、結婚できず、子供を産めないから人口が減るというようなことが書いてありました。
その結果、介護人材が足りなくなっているのです。
グローバル・ケア・チェーン(Global Care Chain)という概念があります。ようするに、介護労働が国際化してきており、グローバルサウスの労働者がグローバルノースの介護を担うのですが、日本の途上国化・貧困化がすすめば、日本の優秀な?介護労働者がシンガポール、オーストラリア、韓国、台湾、香港、マカオに出稼か移民として日本を離れていくかもしれませんね。
介護人材不足の根本原因は、私たちの選んだ?政府の棄民政策による格差拡大、貧困化、途上国化にあるのだと思います。
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