見出し画像

外国人嫌悪と日本の凋落


1.顕在化するゼノフォビア(外国人嫌悪)

(1)ゼノフォビアとは

 次の記事は日本人のゼノフォビア(xenophobia)について考える良いきっかけを与えてくれています。
 ゼノフォビアとは「外国人嫌悪」「外国人恐怖症」を意味する言葉ですが、単なる恐怖や警戒ではなく憎悪や軽蔑の感情を強く含んだものとして用いられます。

 少し前までは、「爆買い」する金持ちの中国人観光客に対して嫌悪感を隠さない人も多かったですし、いまでは東南アジアからも多くの観光客が日本に来てくれていますが、多くの外国人観光客が日本に押寄せてきていることを良く思わない日本人も多いようです。

(2)顕在化してきているゼノフォビア

 この記事でも、日本社会でゼノフォビア(外国人嫌悪)が顕在化していると指摘しているのです。

インバウンドの増加にともない、SNS上では人種や民族を問わず外国人に対する不満や怒りの声が目立ってきた。この現象は、日本社会に潜在していたゼノフォビアが顕在化していることを示しているのかもしれない。

2024.07.07 昼間たかし Merkmal(メルクマール)

(3)インバウンド賛成派は半分以下

 また、この記事では、北九州市立大学の宮下量久氏・内田晃氏による「関門地域におけるインバウンド政策に関する調査研究:北九州空港・北九州港・下関港を事例として」(『関門地域研究』Vol.26)を紹介しております。
 この調査結果で「外国人観光客の増加の賛否」という調査項目で、賛成と回答した人の割合は、・北九州市:39.1% ・下関市:45.2% となっていて、両市ともインバウンドに賛成している人は半数にも満たないという結果になっています。

(4)ゼノフォビア顕在化の要因

 この記事では、ゼノフォビア(外国人嫌悪)が顕在化している一つの理由として、「長引く不況下で、豊かなインバウンドの姿が日本人の自尊心を傷つけている。」を挙げております。
 これはもう、ルサンチマン(仏: ressentiment)と言って良いでしょう。
 ルサンチマンとは弱者が敵わない強者に対して内面に抱く、「憤り・怨恨・憎悪・非難・嫉妬」といった感情です。

 Cool Japan、凄いぞ日本、日本はクールだから外国人観光客が来るのだと、かつての日本人は思っていましたが、今は、日本が安いから外国人が来るという理解に変わってきているのだと思います。Cheap Japanです。
 一部には未だにCool Japan派もいるでしょうが・・・
 日本社会は長期低迷の結果 Cool JapanからCheap Japan へと落ちぶれて?しまったのです

 バイデン大統領が2024年5月1日、ワシントンでの演説で日本を「ゼノフォビアの国」と呼んだことが多くのメディアで取り上げられました。
 このバイデン大統領の発言は日本の移民政策(日本政府は移民ではないと強弁していますが)についての発言でした。

 移民にしても、外国人観光客にしても、ゼノフォビア(外国人嫌悪)の問題は、私たちの社会のあり方に関わる問題を提起していると思います。
 まずは、「ゼノフォビア」(外国人嫌悪)という言葉・概念を頭に入れて、日本と海外との関係、日本に来る外国人観光客や技能実習生や特定技能外国人(移民)と日本人、日本社会について考えられるようになることが大切だと思います。

2.日本の凋落

 顕在化するゼノフォビア(外国人嫌悪)の大きな要因は日本の凋落によって、日本人の自尊心が傷ついていることにあるのではないでしょか。
 日本を立て直すためには現状の把握が基本です。日本はどの程度凋落してしまっているのかをしっかりと認識してから、今後、どのように立て直していくのかを考えなければなりません。

(1)世界競争力ランキングで日本は38位

 スイスのビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD:International Institute for Management Development)は2024年6月18日、『世界競争力・ランキング2024』を発表しました。

 この世界競争力ランキングで世界の67カ国・地域中で、日本は昨年の35位からさらに順位を下げ、38位になったといいます。
 このランキングは、「経済パフォーマンス」、「政府の効率性」、「ビジネスの効率性」、「インフラストラクチャー」の4つの競争力要因について、336の指標を使用して評価を行っているのだといいます。
 このランキングが始まった1989年から1992年までの期間では、日本は世界第1位だったことを考えれば、日本は落ちるところまで落ちてしまったという感じでしょうか。
 2024年のランキングでアジアの国々をみてみますと次のようになります。
※ 番号はアジアでの順位です。

  1. シンガポールが世界の首位・第1位

  2. 香港 世界5位

  3. 台湾 世界8位

  4. 中国 世界14位

  5. 韓国 20位

  6. タイ 25位

  7. インドネシア 27位

  8. マレーシア 34位

  9. 日本 35位

  10. インド 39位

  11. フィリピン 52位

  12. モンゴル 61位

 技能実習や特定技能で受入れている国々でも、中国、タイ、インドネシア、マレーシアは日本よりも上位なのですね。

(2)「世界デジタル競争力」ランキングは日本は32位

 IMDは、「世界デジタル競争力ランキング」も作成しています。2023年11月に公表された2023年の結果を見るとアジアの国々のランキングは次のようになっております。

  1. シンガポール 世界第3位

  2. 韓国 第6位

  3. 台湾 第9位

  4. 香港 第10位

  5. 中国 19位

  6. 日本 第32位

  7. マレーシア 33位

  8. タイ 35位

  9. インドネシア 45位

 この「世界デジタル競争力ランキング」は知識、技術、将来への準備の3つのファクターによって評価されていますが、日本は「知識」第28位、「技術」32位、「将来への準備」が32位だったそうです。
 コロナ禍では日本はデジタル敗戦をしたと言われていますが、この順位をみれば、当然と言えば当然だと思ってしまいます。

 コロナ禍で日本はデジタル敗戦を喫したという。高度な通信インフラがありながら、感染者情報を管理する「ハーシス」、濃厚接触者追跡用の「ココア」など、関連システムはまな十分に活用されなかった。行政は縦割りだし、国と地方自治体の連絡も悪く、まさに「デジタル劣等国」だと酷評する人も多い。

引用:西垣通 2023『デジタル社会の罠 生成AIは日本をどう変えるか』毎日新聞出版 p72

(3)日本の世界人材ランキングは43位

 IMDは、「世界人材ランキング」も発表しております。2023年9月に公表された2023年の結果を見ると、日本は43位でした。
 この人材ランキングは、「人材投資と開発」「アピール」(魅力)」「準備」の3つの項目によって評価されます。この3項目の詳細は次のとおりです。

「人材投資と開発」とは、教育に対する公的支出、教師の数、雇用訓練、女性労働者比率、健康のインフラストラクチャーなど。この項目では日本は第36位です。
「アピール」(魅力)」は、生活費、頭脳流出、生活の質、外国の熟練専門家、個人所得税など。日本はこの項目では23位。
「準備」は、労働力の成長率、専門家、金融の技術、国際的経験、シニアマネージャーの能力、初・中教育、理系の人材、大学での教育、経営の教育、語学の能力など。日本はこの項目では58位。
 特に「準備」の詳細項目である「シニアマネージャーの能力」が世界第62位、「語学の能力」世界第60位、「国際経験」に至っては64ヶ国中、第64位、つまり最下位と悲惨な結果になっています。

 留学生数を見ても、韓国と比べて、日本は約4分の1と非常に少ないのだそうで、人口あたりで見れば、もっと少ないとのことです。

  1. シンガポール 世界第8位

  2. 香港 世界第16位

  3. 台湾 世界第20位

  4. マレーシア 第33位

  5. 韓国 第34位

  6. 中国 第41位

  7. 日本 第43位

  8. タイ 第45位

  9. インドネシア 47位

(4)地域に根ざし、世界に目を向けよう

 凋落が著しい日本においては、インバウンド頼みの経済成長と外国人労働者に頼らざるを得ない人材対策に関心が向かっているようですが、その一方でゼノフォビア(外国人嫌悪)、排外主義、レイシズム、歴史改竄が吹き荒れようとしてます。
 さらには軍事力強化を図り隣国との緊張を意図的に煽っているようにも見えます。

 このような独りよがりの姿勢は、人材ランキングの小項目「国際経験」が最下位だったことに象徴される、国際的な経験、視野の欠如が日本にとって非常に大きな足枷あしかせになっていることを示していると私は思います。

 「地域に根ざし、世界に目を向けよう」は確か、私の古巣のYMCAの標語だったかと思いますが、今にして思えば、日本の大きな課題を表していると思います。
 日本の福祉・介護の世界も「地域密着」が「地域埋没」にならないよう、地域に根ざし、世界に目を向け、世界とつながるよう努力することが凋落日本を救う手立てになるのではないでしょうか。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?