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[読書メモ] 世界はフムフムで満ちている / 金井真紀

世界はフムフムで満ちている

テレビ番組の構成作家らしい視点で、様々な職業のインタビューをもとにしてまとめられたエッセイ集。職業ごとに独特の文化を垣間見ることができて、知的好奇心がくすぐられる。それぞれの専門職を担うインタビュイー(取材される側)からは、何気ない一言の中にも小さな矜持のようなものが感じられる。文庫版向けに12作が増補されている。

海女

みな、海のなかに自分の「たんす」をもっている。仲間には教えない、自分だけの漁場。

世界はフムフムで満ちている|P.10

・海女(あま):海中で海産物を採取する女性漁師のこと。男性の場合は「海士(あま)」と表記される。

海女のたんすは、獲物が良く捕れる縄張りのようなものなのか。もしくは、既に捕った獲物を保管しておくような場所のことなのかも。

画商

「あのねぇ、僕らが『いいんじゃないですか』って言ったら、そーゆー意味だからね」

世界はフムフムで満ちている|P.36

漫画ギャラリーフェイクの主人公(フジタ)だけではなく、画商はみんな怪しい人たちなのかもしれない。これは贋作(偽物)ですと言わずに、「いいんじゃないですか」と言う真意は何なのか。贋作診断に自信がないことに対するセルフハンディキャップなのか、贋作診断を自らが下すことに商業的メリットが無いからなのか。

出版社の社長

「決めてることは、いっこだけ。それっぽいことをしないってことです」

世界はフムフムで満ちている|P.82

置きに行く(自分の本当にしたいことやチャレンジすることを恐れて無難な手段をとること)言動を取ってしまうことは多い。自分のパーソナリティを維持するためには、それっぽいことをしないことも大事。それっぽいことばかりやっていると、どの言動が本当の自分なのか自分で判らなくなりそう。

セロハンテープメーカーの技術者

アメリカからやってきたセロテープは日本の気候に合わなかった。それを技術者が何世代にもわたって改良し続けてきたのである。

世界はフムフムで満ちている|P.102

アメリカの3M社が開発したセロファンテープが、戦後にGHQ(総司令部:General HeadQuarters)によって持ち込まれたものを、日本のチニバンが日本向けにセロテープとして1948年に発売した。セロテープは植物性原料のみを利用している。

起業家

「人生、死ぬまで暫定だから」

世界はフムフムで満ちている|P.194

人生をデータベースのトランザクション処理とコミット(確定)に例えているようにも見える。人間が生まれてから、様々な人生のトランザクション処理が行われている期間は全て「暫定処理」、人間が死ぬときにそれらの処理がすべて成果や結果としてコミット(確定)される。

昆虫学者

寿命が短いのは生きる力が強いってことなのか。

世界はフムフムで満ちている|P.196

昆虫の一生は興味深い。大抵の昆虫は、1年で一生を終えて代替わりする。雌が一度に産む卵の量も多い。人間の概念における「個」は単数形だが、昆虫の概念における「個」は複数形である。繁殖能力と短命な寿命によって、環境変化にも適応しやすい。

文庫版あとがき

「どんな人にもすごいところがある、とわたしは思います。ただ、すごさには、わかりやすいすごさとわかりにくいすごさがある」

世界はフムフムで満ちている|P.224

「わかりやすいすごさ」は、五感で捉えやすいもの。「わかりにくいすごさ」は、五感で捉えにくいもの。そもそも「すごい」は「すごくおいしい」のようにポジティブに使われることもあるし、「すごくまずい」というようにネガティブに使われることもある。「すごい」という副詞は、定冠詞くらいのもの(Theと同じようなもの)だと思っておいた方が気が楽。


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