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[読書メモ] エフォートレス思考 / グレッグ・マキューン

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する

エフォートレスは、「努力を必要とせず楽に」という意味ではなく、「難しいことを単純化して効果的に」行うための思考と捉えることが、本書のタイトルの解釈としては適切。一部で共感しづらい部分はあるものの、具体的な思考展開や実践的な手法は参考になる点が多い。メンタル面での思考改善や、安定的な成果を持続させるための実践的なアクションが分かりやすく解説されている。

Prologue エフォートレス思考とは そのやり方が唯一の道ではない

くたくたに疲れていなければ、サボっていると言われる。
つぶれるまで働かなければ、ダメなやつだと言われる。
ゴールは人の限界を超えたところにあるみたいだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.16

・Effort:努力、奮闘
・Effortless:努力を要しない、楽な

疲弊していなければ努力していないという類の同調圧力は、日本人特有の感性だと思っていたが、アメリカでも同様の同調圧力が存在する労働環境だったことは意外。
(生物的な観点における)人間の限界を超えたゴール設定をしてはいけない。ただ、(精神的な観点における)自分の限界を超えないゴール設定では自己成長が望めなくなる。生物的限界と精神的限界を区別しておかないとただの自堕落な人間になってしまう。
生活をする上で必要な労働という観点ではエフォートレスであるべきだが、人生や社会を豊かにするための努力をエフォートレスにしてしまうと進化できなくなってしまう。エフォートレスにすべきタスクと、エフォートレスにすべきでないタスクがある。

PART 1 エフォートレスな精神

私たちは大事な仕事に持てる時間とエネルギーのすべてを注ぎ込み、時には心の健康さえも犠牲にする。まるで自己犠牲にこそ価値があると言わんばかりだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.40

自分のリソース(時間とエネルギー)を最小限にする営みが重要になってきたのは、最近の社会環境によるものかもしれない。20世紀までは、時間とエネルギーを大事な仕事に充てることにストレスを感じる人が少なかった。21世紀になると情報化を始めとした社会構造の変化によって、特にメンタルエネルギーを消費する機会が激増した。メンタルエネルギー消費の大半はSNSを始めとした不特定多数とのコミュニケーション機会と範囲の増大によるもの。自然災害の増加や、気候の変化によるフィジカルエネルギーの消費も少なからず影響がありそう。

もっとも少ない努力で成果を出そうとする傾向が、ヒトという種の生存を可能にしてきたのだ。こうした自然の傾向にあらがうのをやめて、それを強みに変えてみたらどうだろう?
「困難な仕事をなんとしてもやり遂げてみせるぞ」と意気込む代わりに、「どうやったらこの仕事がもっと楽になるか?」と考えてみるのだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.41

狩猟社会においては石器などの武器の使用、農耕社会においては灌漑設備の整備がヒトの生存率を上げてきた。戦後の現代においては電化製品の普及がヒトの仕事を楽にした事例。情報化社会の時代もフィジカル的に楽になるソリューションやプロダクトはたくさん産まれたが、今はメンタル的に楽になるソリューションが求められている。

運動の効果を辛抱強く待つのではなく、運動しながら楽しめる方法を見つけたのだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.60

ダイエットという目的のために運動し、その成果が出るまで辛抱することをやめる。ダイエットのためという目的を一旦忘れて、運動しながら好きな音楽や映像を楽しむという思考転換。同じ動作をする場合でも、プロセスやアプローチの仕方を変化させることでメンタル的な負担が軽減できる。

不平不満を口にするうちに、あるいは他人の不平不満を見聞きするうちに、どんどん不満が増えてきた経験はないだろうか。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.70

不平不満は目に見えないゴミだと考えた方がよい。これは自分が発した不平不満でも、他人が発した不平不満を見聞きした場合でも同じ。

怒りはあまりいい仕事をしていないことに気づく。リソースを食うばかりで、投資に見合った効果が得られないのだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.77

怒りによって一定の仕事量を出せるケースもあるが、仕事の質が悪くなることが多い。また、怒りをエネルギー源にしてもあまり長続きしない。

「君は見えちゃいるが、観察していないのさ」そしてホームズは、建物の玄関からこの部屋までの階段が何段あるかとワトソンにたずねる。ワトソンが答えられないでいると、「ほら、観察していない」と勝ち誇ったように言う。「ただ見ているだけなんだ」

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.97

「この部屋に入ってくるまでに、何段の階段を上ってきましたか?」というフェルミ推定の能力を試す企業面接官の設問を思い出した。ここではフェルミ推定能力の話ではなく、視界には入っていても焦点を絞っている範囲(観察している範囲)でなければ正確な把握はできないという事実に関する話。年齢や立場などによって注意して観察する対象が違うので、普段意識しない事柄に対する質問に答えるのはかなり難しい。

難しいのは、聞くことではない。聞きながらその他のことを考えないことだ。難しいのは、その場にいることではない。そこにいながら過去の出来事や未来の予定に気を取られないことだ。難しいのは、何かを見ることではない。雑多な情報を無視して、見るべきものだけを見ることだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.98

「聞くこと」は簡単で「聞くときに他のことを考えないこと」が難しい。「見ること」は簡単で「見るべきもの以外の情報を無視すること」が難しい。つまり「聞く対象」「見る対象」に集中すること(焦点を絞ること)が重要。ただ、本当に重要なのは「聞いた」「見た」ことを「理解する」こと。

PART 2 エフォートレスな行動

フリースローを成功させるためにもっとも重要な要素は、ボールを手放すときのスピードであることがわかった。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.112

バスケットボールのシュートを放ったときに「これは入るな」と思う感覚があるが、これは手を離れた時にボールの射出速度を自身の手で感じ取っているのかもしれない。とても興味深い研究結果。

修正しようと思えば、いくらでもできる。だがあるポイントで完了させないと、あとは手間ばかりかかって効果はほとんど得られない。修正にかかるコストが、それによって得られるリターンを上回ってしまうのだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.118

資料の修正や音楽制作などの成果物に完成というものが無い(無限である)ことをまずは再認識したい。修正の効果(成果物の価値向上の度合い)が感じられなくなったタイミングで切り上げる必要があることは、頭では判っていてもなかなか割り切って修正完了判断を下すことが出来ない。修正の手間に対して、効果が得られていない状態を客観的または定量評価で判断できるようにすると良いかもしれない。例えば、同じ箇所を繰り返し修正している場合など。

MVPを「最小限の努力で顧客の反応を最大限に知ることのできるバージョン」と定義する。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.127

・MVP(Minimum Viable Product):最小限の機能を備えた最も基本的な製品またはサービスのバージョンのこと

ここではMVPをさらに視点を変えて、「顧客の反応を最大限に知ることのできるバージョン」と定義している。この定義をすると、顧客の反応を早く知ることが主目的になるので、必然的にプロダクトを早く出すことが求められる。

テック企業はこの2.5秒の重要性を心得ているため、なんとか私たちの注意を獲得しようと日々工夫を重ねている。最近のサービスがとても小さな単位で提供されるのはそのためだ。140文字のツイッター。フェイスブックやインスタグラムの「いいね」。スクロールして一瞬で概要を把握できるニュースフィード。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.130

確かにYouTubeのような動画のコンテンツもショートコンテンツが増えている。小さいコンテンツを沢山消費させることがKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)になっているのかも。

速く動くためには、多少の失敗はつきものだ。10~20%の失敗率なら問題はない。早く動けるほうが大事だ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.150

「顧客の反応を最大限に知ることのできるバージョン」というMVPの定義にも関連している。失敗しないことを諦めて、小さな失敗をしてでも早く進めることを重視している。VUCAな時代においては、失敗しないように慎重に進めた所で、時間が経ってしまえば別の要因で失敗するだけかもしれない。

・VUCA:Volatility(変化)、Uncertain(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)

エフォートレスなペースで進める最善の方法は、上限をしっかりと決めることだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.159

下限を決める(即ちノルマの設定)は意識することが多いが、上限を決めるということはあまり意識しないことが多い。運動であればオーバーワークは身体に良くないことが判りやすいが、デスクワークのオーバーワークも精神に良くないということかもしれない。デスクワークの調子が良いときに、予め決めた上限で作業を止めることは難しそうだが試してみたい。

歩きと走りの中間のような動きで、すばやくも慎重な足取りです。武器を携えながら、リズミカルに戦場の全方向に視線を走らせます

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.161

この動きが戦場で最も生存率が高い動き方らしい。力まずに長距離を走る感覚に近い。

PART 3 エフォートレスのしくみ化

直線的な成果には、限界がある。けっして努力した量を超えることができないのだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.168

努力して単発の結果を出すことは「直線的な成果」。努力した分は報われることもあるが、報われる状態が持続しない。持続的に報われるためには「累積的な成果」が得られるように、蓄積可能な努力をすることが大切ということ。

ニュートンの著作に自動車やジェット機や宇宙船をつくる手順が書かれているわけではない。そうではなく、自動車工学や航空工学、宇宙飛行に応用かのうな原理原則を提供しているのだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.175

・原理原則:特定の行動や判断の基盤となる基本的な理念や規範のこと

仮に、ニュートンが自動車やジェット機の手順書を示したとしたら、それは「直線的な成果」しか出力できなかった。汎用的で様々な分野に応用可能な原理原則を示したことによって「累積的な成果」が得られるようになった。

「方法は百万とあるかもしれないが、原理はわずかしかない。原理を把握した人は、自分の方法を正しく選ぶことができる。原理を無視して方法に飛びつく人は、必ず困難に陥る」

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.176

・原理:ある事象や現象に関する根本的な法則や基本的な理念のこと

原理の例として、ニュートンの運動法則(慣性の法則、運動方程式、作用・反作用の法則などの運動の原理)、ボイル=マリオットの法則(気体の原理)、ダーウィン進化論(生物学の原理)、トレードオフの原理(経済学の原理)、マシューの法則(人口統計学の原理)などがある。
調べた中で最も面白かったのは、オッカムの剃刀(哲学の原理)。「ある事柄を説明する際に、必要以上に多くを仮定すべきでない」とする指針がとても興味深い。複数の説明(仮定)がある場合、最も単純で説明力があるものを選ぶべきとする原理は、コミュニケーション・スキルにおいても重要なポイント。
本書の「原理を無視して方法に飛びつく人は、必ず困難に陥る」という記述は、「ビジョンを持たずに行動してしまうと、途中で何をやっているかわからなくなってしまう(目的を見失ってしまう)」ことにも関係している。

個々のアイデアは、そのままでは直線的な知にすぎない。しかし、そのアイデアが相互に結びつくと、累積的な知が形成される。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.183

最初は「直線的な知」であっても、様々な種類の「直線的な知」の組み合わせによって「累積的な知」が形成され累積的な成果が得られるということ。これは、学校教育において多種多様な教科を学ぶことの重要性にも通じるし、昨今重要視されつつあるリベラル・アーツにも通じる。

・リベラル・アーツ:幅広い学問分野を包括的に学び、批判的思考や総合的な教養を養う教育アプローチ

本の寿命は、その本の年齢に比例する。本が古ければ古いほど、その本が将来にわたって生き残る可能性が高いということだ(これをリンディ効果という)。だから本を選ぶときは、長く読まれている本を優先するといい。つまり、古典を積極的に読んでみよう。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.185

・リンディ効果(Lindy effect):長生きするほど寿命がますます延びる法則のこと。例えば、ある新しい技術や製品が市場に登場したとき、その技術や製品が一定期間(例えば10年)存続し問題なく機能し続けると、安定的に生き残ってより長い寿命を持つ可能性が高まる

長く残り続けている古典は、普遍的な原理原則が多く記述されている。
技術書は新しいものを読む方が有用なことが多いが、人間に関わるもの(人文学や哲学など)は古典から読む方が有用なことが多い。

広範囲に影響を与えたいときには、人に教えることがきわめてハイレバレッジな戦略になる。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.191

・ハイレバレッジ(high leverage):小額の自己資本で大きな取引を行うこと。金融用語におけるレバレッジ比率は、「他人資本÷自己資本」の計算式で算出される

自分の知識が「自己資本」、他人に与えた知識が「他人資本」と置き換えると、他人に知識を与えた方が投資効果が高いことを示している。
この考え方は、自分で仕事をするよりも他人に仕事を教える方が、会社などで全体的な成果を上げやすいというマネジメント・スキルにも適用できる。

必要に応じて呼び出すことのできる情報(ワーキングメモリ)の容量は、はるかに少ない。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.198

これは普段意識できていないことが多いので、常に意識できるようにしておきたいポイント。人間はハードディスク容量が大きくてもメモリ容量が少ないことを理解しておかないと、沢山のマルチタスクができるという誤認識をしてしまうことになる。

信頼関係がなければ、チームのパフォーマンスは上がらないのだ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.209

信頼関係を保つことによって、余計なタスクや思考をスキップできるメリットを説いている。「信頼できない」場合は、疑ったり、確認したりするコストがかかる。「信頼できる」場合は、疑ったり、確認したりするコストがかからない。後者の具体的な例は「家族」や「親友」のようなケース。

ウォーレン・バフェットは、従業員やビジネスパートナーを選ぶ際に、信頼を測る3つの基準を用いている。その3つとは「誠実さ(Integrity)」「知性(Intelligence)」「自発性(Initiative)」だ。

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.211

・誠実:正直で誠実な態度や行動を示すこと
・知性:知識の獲得、問題解決、学習能力、理解力などの認知的な能力
・自発性:自分から意欲的に行動し、主体的に取り組むこと

誠実さとは、正直であることに加えて、それを態度や行動に示すことが大事。知識を体得する能力は主にインプットの能力、自発性は主にアウトプットの能力と言える。バフェットの3つの基準を備える人物は、勤勉でインプットとアウトプットのバランスが良い人物と言える。

自分自身に問いかけてみよう。
1.自分を何度もイライラさせる問題は何か?
2.その問題を放置した場合の年間コストはどれくらいか?
3.それを解決するために、数分ですぐにできるステップは何か?

エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する|P.220

何度もイライラさせる問題は単純な課題であることが多い。一方で、何度もイライラさせる問題ではあるが異なる種類のものもある。後者は解決が難しいが、前者は早々に上記の1~3のステップで解決すべき。普段の生活を妨げる障害物(例えば、故障した家電、整頓されていないワークスペースなど)は、すぐに上記のステップで解決すべき。


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