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“社内の不安を払拭する”逃げない背中を信じ続けるフォロワーシップの底力|企業文化をデザインする人たち#04[前編]

2023年6月1日に出版された「企業文化をデザインする」を執筆する過程であらためて実感した「企業文化」の底知れぬ奥深さと影響力。

そんな「企業文化」をさらに深め、多くのビジネスリーダーにとって「デザインする価値があるもの」にするため、「企業文化」と常に向き合ってきたIT業界・スタートアップのトップランナーにインタビューする短期連載企画。

ーー「企業文化をデザインする人たち」

第4弾となる今回は、株式会社グッドパッチで同社のカルチャーの基礎を築いてきた高野葉子さんです。
前後編2回にわたって公開する前編です。

話し手|株式会社グッドパッチ People Empowerment室 人事 高野葉子

千葉大学大学院工学研究科デザイン科学コース修了。学生時代にはデザイナーを目指し6年間かけてUI/UXデザイン、デザインマネジメントを学ぶも、2013年に卒業後はベンチャー・スタートアップ企業にて新規事業開発・事業推進を担当。2016年より株式会社グッドパッチに社長室広報として入社。2019年 経営企画室PR/PXグループマネージャーに。グッドパッチは2020年6月に日本初のデザイン会社として上場。産休育休を経てデジタル庁の立ち上げに携わる。2022年9月よりグッドパッチの広報から人事へジョブチェンジ

聞き手|株式会社ラントリップ 取締役 冨田憲二

2006年、東京農工大学大学院(ビークルダイナミクス)卒、株式会社USENに入社。その後ECナビ(後のVOYAGE GROUP、現CARTA HOLDINGS)に入社し複数の新規事業を担当後、子会社として株式会社genesixを創業、スマートフォンアプリの制作とプロデュースを行う。2013年に創業期のSmartNewsに参画し、グロース・マーケティング・セールス事業立ち上げを経て当社初の専任人事となり50名から200名への組織成長と企業文化形成を担当。現職は株式会社ラントリップで事業・組織推進に従事しつつ、複数社のスタートアップで企業文化・人事組織アドバイザリーを担当。2023年6月1日に初の著書「企業文化をデザインする」を出版。

具体のデザインではなく、抽象的なデザインの価値を求めて


冨田憲二(以下、冨田)|先ずは簡単に高野さんのバックグランドから聞かせてください。高野さんは学生時代「デザイン」を学んできてますよね?

高野葉子(以下、高野)|学部と大学院でデザイン科だったんですが、その時「デザインマネジメント」に出会ったんです。

元々デザイナーになろうと思ってたんですけど、自分はプロダクトとかサービスとか具体のものではなく、より"抽象度の高いものをデザインしたい"とそこで気がつきました。「デザインを組織の中でどう活用するか」に興味があったんです。

そこで総合職として新入社員としてトレンダーズに入社しました。社長直下で新規事業をやったりしたんです。

冨田|トレンダーズさんは創業者の経沢さんが強烈なカルチャーを持っていた印象です。彼女のカルチャーは、未だに高野さんの中に生きていますか?

高野|ものすごく生きています。

新卒入社の会社のカルチャーは社会人としてのベースになりますよね。さらに当時トレンダーズは社長が女性なのはもちろん、8割が女性の会社だったので、働く女性の様々なタイプのロールモデルをインプットできたことは、自分の社会人としての人格形成にもすごく影響しました。

冨田|今のグッドパッチのカルチャーとシンクロする部分はありますか?

高野|近しいものはありますね。当時、トレンダーズのバリューの一番最初に「チャーミングであれ」というものがありました。

そして、グッドパッチも「チャーミングさ」みたいなところがあるんです。グッドパッチは「ハート揺さぶるデザインの世界を前進させる」というビジョンを描いているんですけど「ハートを揺さぶる」って結構「感情」のことを言ってますよね。人の心とか感情を大事にしてる点に共通点を感じますね。

グッドパッチは「ハート揺さぶるデザインの世界を前進させる」というビジョンがあるのですが「ハートを揺さぶる」って「感情」のことを言っているんですよね。人を起点として考える「デザイン」への投資は「人の感情価値」への投資であると考えています。人の心とか感情を大事にする点に共通点を感じますね。

中から外を意識する「広報」で、会社の空気を変える


高野
|トレンダーズでも、その次に入ったスクーでも、事業サイドにいながらバックオフィスの業務を社長から剥がしたりなど色々やってきました。

学生時代から「デザイン」への想いが心の中にずっと残っていて、「デザイン」が事業の起点にあるグッドパッチに入社しました。

大好きなデザインに携わる機会をいただけるのであれば、職種は何でも良かったんです。実際、グッドパッチで初めて「広報」というポジションに就きました。

冨田|最初は人事ではなくて「広報」だったんですね。そこに土屋さんとしては明確な意図があったんでしょうか?

高野|そうなんです。明確な意図はありました。代表の土屋からは

「広報は外ばかりになりがちだけれども、まずは内。社員としっかり関係性を構築してほしい。誰が何をやっているのか、社内で何が起こっているのかを把握すること。内から外を意識して欲しい。」

と最初に言われたのが印象に残っています。

冨田|実際その時、会社組織の状態はあまり良くなかったんですよね?

高野|ちょうど過渡期ですね。当時50〜60人ぐらいの規模で、10人辞めたところに10名入ってくるような混沌とした状態でした。

実際危機感を感じて最初に作った行動指針は結局上手くいかなかったのですが、私はそのお披露目の日に入社しています。

冨田|高野さんが感じた、当時のグッドパッチのカルチャーは実際どういうものでしたか?

高野|ものづくりが本当に好きな人たちが集まっている、ハードコアな組織の空気でした。もの凄くクラフトマンシップに溢れていて、職人肌で、叩き上げで真剣に一生懸命デザインと向き合ってきた人たちの集団という感じですね。

みんな若くて優秀なんです。年齢とギャップがあるような感じで。プロフェッショナルが凝縮した集団でしたね。

冨田|その当時の文化と今の文化が違うのは必然だったのでしょうか?

高野|当時はデザインの領域も「UIデザイン」に特化したブランディングをしていたので、UIデザインのプロフェッショナルの人たちが集まってるが故のカルチャー、空気だったんだと思います。

この十年近くでデザインの領域がどんどん広がったんです。UI/UXデザインのみならず、ブランドのデザインやビジネスのデザインも。それによって、人材も多様化してきて増えてきています。ダイバーシティをお互いリスペクトし合えるような感じになってきてる部分は、事業構造の変化によっても起きていると思います。

冨田|その過程で、意図的にカルチャーをデザインした部分と、事業領域が広がったりして結果的にカルチャーも進化したという両面あるのですね?

高野|そうですね。やっぱり事業と組織は両輪だなってすごく思います。やっぱりどっちかだけでもだめで、両方の観点があって動いていくもの、育まれていくものだなと凄く感じます。

逃げない背中があるから、信念を持ってやり切れる

冨田|では、今度は「意図的なカルチャーデザイン」の方にどんどん深掘りしていきますね。

高野さんはずっと中心でグッドパッチのカルチャーを育んできたと思いますが、今思い起こされる一番印象的な出来事や学びは何ですか?

高野みんなの力を借りる、誰か一人がリードするものではない。この学びが一番大きいです。

これはやはり「失敗体験」から来ているんです。先ほど触れた最初にお披露目で失敗した行動指針は、その後一人でなんとかしようと思ってポスターを作ったり、勝手に孤軍奮闘していました。アウトプットとしてクオリティも低かったし、腹落ちしてないものを突きつけられたりしても受け入れ難いのは、今となっては納得なんですよね。私がその姿勢の象徴だったなって、今振り返ると思うんです。

そんな中でも、優しく一声かけてくれる人、サポートしてくれる人が実際にいたんです。そこで2回目は「巻き込み」を徹底してやったんです。作るところから浸透するところまでっていうのは、やっぱり誰かひとりでカルチャーを耕すんじゃなくて、みんなの手で混ぜていくっていう学びですね。

冨田|これはあたまでは理解するのは簡単ですけど、みんな本業というか、自分の業務的ミッションがある中で、横串系に巻き込んでいく、それをやり切るのって本当に大変ですよね。

さらに入社したばかりの人が、周囲にクレジット(信頼残高)が足りない中で巻き込んでやっていくって相当大変だったと思うんです。これをやり切れた要因はありますか?

高野|そうですね。2回目の浸透フェーズの時は入社して丸2年が経っていました。ただ、ひとつ言えることは「デザインの力を証明する」というミッションを成し遂げられる会社が、やっぱりここ(グッドパッチ)しか、どう考えてもなかったんです。

だから、ここをよくしないと、会社も、デザインも、デザイナーもこれ以上のものにならないなっていう、謎の使命感はありました。ただ、その自分の心の奥にある「意義」みたいなものに自分で火をつけた部分もありますが、さらに火をつけてくれた人もいて。それが代表の土屋なんですよね。

彼は「逃げない」んです。絶対に目をそむけないし、逃げないし一緒に考えてくれる。

うまくいかないことがあったりとかしたら聞いてくれるし、どうしたらいいんだろうねって言いながら一緒に考えてくれる。何があっても、そういう人の支えが絶対にいるっていう安心感がありました。

冨田土屋さんのTwitterで時々出てきますね、「逃げない」というキーワード。その覚悟凄いですよね。

ただ、そうやってトップの側で支え続ける、というポジションが高野さんに合っているというのもある気がしています。

社内外に、トップの良さを拡散していく役目はトップを支える意味でも、カルチャーを中心から育む意味でも凄く大事ですよね。

高野|トレンダーズでもスクーでも、経営者の側で一緒に課題にトライして、逆にエネルギーをもらっているんだと思います。だから自分としてはこのポジションにやりがいを感じられる。

何より尊敬できますからね。旗を立てる力があるって、凄い事だなと思っているんです。深く刺して、強い風が吹いても離さない握力は凄いなって。

例えば土屋はデザイナーじゃないんですよね。だけどグッドパッチの「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンや「デザインの力を証明する」というミッションにここまでコミットできる。

尋常じゃないです。これまでデザインを主力事業にする会社の多くは、カリスマ的なデザイナーがトップにいる少数精鋭のデザイン事務所が一般的でした。でも、彼の場合は事業で「デザイン」の力をスケールさせる道を選んだ。そうしないと、良いものはできても、ビジネスという観点ではデザインの価値や、デザイナーの価値が社会で正しく認知されません。
良い意味で「デザイン」をちゃんと手段として事業にして、それで社会に、より大きなインパクトを与えていく。それがグッドパッチなんです。


孤軍奮闘する起業家を、本物のリーダーにするために


冨田
|折れず中心で旗を支え続ける。踊り続ける人って本当にすごいですよね。ただ、そんな人を高野さんみたいに支え続ける、フォローする人がいてあらためて組織が成り立ち、あるべきカルチャーが末端まで育まれていくものだなと思っています。

これ系の話で好きなTED動画がありまして。

ずっと1人で踊っている一見すると「奇人(nut)」みたいな人に、駆け寄って一緒に踊る「最初のフォロワー」がつくことによって、そこにたくさん人が集まって最後はムーブメントになる。「最初のフォロワー」によって、初めてただの「1人で踊る奇人」から「リーダー」になると。

最初に踊り始める人も大事なんだけど、それを1人のものではなく、みんなのものにするためには、リスクをとってフォローする人、フォローの仕方を身をもって教える人が、組織的な動きやカルチャーにおいても凄く大事だと思っています。これは組織ごとのどのような局面においてもです。

こういう創業者・起業家のフォロワーって健全な会社組織を育む上で大切なんですが、高野さんはご自身のキャリアでずっとそれを体現しているなと思うんですよね。

高野|確かにですね。ただ、やっぱりそれ(まず最初に踊り始めること)が自分にできないことだから、心の底からリスペクトを持ててるというのが大きいのだと思いますね。

起業家の人ってアーティスティックですよね。自分で問いを立てて、その問いに対して自らを奮い立たせて挑んでいく。私はそんな人を凄くリスペクトしていて、自分にはない観点からの問いや、お題を与えられて輝くタイプなんだと思います。

冨田|根底にあるのは「リスペクト」なんですね。心から尊敬できる人だからこそ、時に献身的に、時に社内外にカルチャーのストーリーテラーとしてオリジナルの物語を発信し続けられる訳ですね。

編集後記|起業家をリーダーに変えた広報の力。


スタートアップの初期フェーズ、創業フェーズは、特に誰も踏み入れたことのない新雪に、誰よりも先にリスクをとってドカドカと足を踏み入れていくようなものです。人によってはそれが常識から外れた奇行に映るかもしれないし、リスクを顧みない無謀なチャレンジに見えるかもしれません。当然、当の本人たちも時に根拠の無い確信を無理やり信じながら、時に胃が痛くなるような賭けを自らに強いながら、つまずいては這い上がり、失敗しては学びながら自分たちにしかできない足跡を残していく。

つまり、そんなスタートアップには常に「不安」がつきものなんですね。その「不安」が時に自社の戦略への批判や、トップの行動への批判として形に現れるのかもしれません。ゆえに、企業のどんなフェーズよりも不安定なこの時期に、その不安を払拭してくれる、そして突き進む正解の無い道筋を「全力で肯定」してくれるフォロワーの存在というのは、スタートアップの立ち上がりという観点ではもちろん、カルチャーのデザインという観点でも本当に重要だと思います。

グッドパッチさんの場合は、例えば「組織」をデザインする重要なピースとして「広報」を選んだ。代表の土屋さんは、そのピースに高野さんを選んだ。彼女の類稀なる「フォロワーシップ」が、徐々に社内の不安を払拭し、不安を闘争心に変え、土屋さんを本物のリーダーへと進化させた。組織の足場がグラつく創業・成長フェーズにおいては、こういった人材のデザインが欠かせないのだとあらためて胸に深く刻み込まれるインタビュー前半でした。

本書の「はじめに」と「序章」を無料公開しています。


バックナンバー|企業文化をデザインする人たち

#01|CARTA HOLDINGS 取締役会長兼CEO 宇佐美進典

#02 株式会社マネーフォワード People Forward 本部 VP of Culture 金井恵子

#03 ex-SmartNews, Inc. Head of Culture Vincent Chang

#04 株式会社グッドパッチ People Empowerment室 人事 高野葉子


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