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総合誌、同人誌等で過去に掲載されたものを放り込んでいきます。
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2020年4月の記事一覧

夜の貨物列車

夜の貨物列車

小さい頃から貨物列車が好きだった。ブルートレインを引っ張る姿も、長い貨車を延々と運んで通過していく様も、良いなあ、カッコイイなあ、と思いながら写真集をめくったり、駅に停まっている列車を眺めたりしていた。

どうして好きになったのかは思い出せない。そもそも何かを好きになるということは、きちんとした筋道を辿って起こる現象ではないはずだ。不意にやってきて、熱を帯び、場合によっては急激に冷めてしまう。実際

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図書館と鼻血

図書館と鼻血

水戸駅北口から茨城県立図書館へ向かう坂道は、中高の6年間を通して何度も往復した道である。

慣れた道だから、茨城に住んでいる頃は特に何も思うことも無かったのだが、離れてしまってから思い返してみると、あの坂はちょっと危険なくらいに急な勾配を持っている。坂を上り切ったところはビルで云うとおよそ4階あたりの高さに相当する。普通の歩道として整備するのなんか諦めて、潔く階段にでもしてしまえば良かったのに、と

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「または、最善説」30首(「穀物」第2号)と、いくつかの異稿

「または、最善説」30首(「穀物」第2号)と、いくつかの異稿

はじめに2015年11月発行の「穀物」第2号が完売したので、掲載作「または、最善説」30首を公開します。この連作は、作者としてはあまり出来の良いものではなかったと感じていて、歌集が出る際には改作するか、全く載せないかのどちらかだろうと思いつつ、余裕が無くてずっと放置していたものです。

そうは言いつつも、この連作を作る段階でかなり苦しんだ記憶は今も鮮明に残っていて、これ以降「連作を作る」という行為

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Dead Stock(12首)

もうすこし美しくなるはずだつた器が誰の心にもある

この街を消費してゐる僕たちはイオンに寄つてから大学に行く

新設の書架のひかりを浴びながらレーニン全集、とほい呼吸よ

あくまでもそれはいたみで、みづうみにゆらぐ水面のやうに呪つた

君の死後を見事に生きて最近のコンビニはおにぎりが小さい

掛け持ちのバイトのやうにやめられるはずも無かつた まだ生きてゐる

暗闇を知つてゐるから見えるんだ点滅をく

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