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ドキンちゃんのキンは「菌」なんじゃないかな

知らなかった。

世界がこんなにもアンパンマンにあふれているなんて。

スーパーにも、小児科にも、図書館にも、ありとあらゆるところに彼はいる。
絵本や紙芝居で読んでみると、なかなかどうして奥が深い。
ただの勧善懲悪的な話じゃなかったりする。

彼らの世界の悪役は、もちろんばいきんまんだ。
とはいえ、感染症を引き起こして人々を苦しめるわけではない。
だいたいは、自作のばいきんUFOやロボットを駆使して攻撃をしかけてくる。

ただ、悪の象徴として「ばいきんまん」と名をつけられている。


ばいきん=悪いもの、だった時代

ばいきんの「ばい」は、カビのことだ。
ばいきんは、カビや細菌など、人間を困らせたり病気にする微生物を指す俗称だ。

原作のやなせたかしさんの生まれは1919年。
コッホやパスツール、日本で言えば志賀潔や北里柴三郎なんかの功績で、目に見えない微生物(特に細菌)が病気の原因になることがわかっていた時代だ。

同時に、まだ抗生物質が発見されてもいない時代で、感染症は人々を死に至らしめる大きな要因だった。
悪者はわかっているのに、それを退治する方法がわからない。

そういうわけで、ばいきんはできるだけ遠ざけたい対象だったに違いない。

ばいきんまんのしもべ?的なあいつらの名前は、かびるんるんだ。
徹底している。

紅一点、ドキンちゃんの存在

ばいきんまんの相棒といえば、ドキンちゃんだ。

彼女の存在は、ばいきんまん組の「悪役らしさ」を少しだけ曖昧にしている。

ドキンちゃんは、しょくぱんマンが好きだ。
しょくぱんマンにいたずらをすると、ばいきんまんはドキンちゃんに懲らしめられる。

そして、彼女はみずからすすんで街の人々やアンパンマンに攻撃をしかけるということもない。
ばいきんまんがそうするから、なんとなくついて行っているだけのことが多い。
あるいは、単純に誰かの持っている何かがほしいから、という理由。

どうも、ドキンちゃんは純粋な悪役ではないらしい。

先日、なんとなく娘にアンパンマンの絵本を読んでいて、ハッとひらいめいた。

「ドキンちゃんって、もしかしてド菌ちゃんなのでは……」

悪役ではない「菌」の存在

19世紀、20世紀は病原菌の時代だった。
一部の発酵食品に関わる微生物を除いて、菌たちは病気を引き起こすか否かという観点で選り分けられていた。

今の時代のように、私たちの体に細胞の数以上の微生物たちが共生していることも知らなかったし、
彼らが私たちの健康を支えてくれていることも知らなかった。

抗生物質やその他の人間の営みによって、微生物の多様性がどんどん失われている今になって、ようやく菌たちはその姿を私たちの前にあらわし始めている。

それは、私たちと微生物の関係を再構築する時期に来ているということを意味している気がする。

私たちは、細菌やカビなどの微生物とどう向き合えばいいのだろう。

わからない。
私たちは、微生物のことをまだほとんど知らないのだから。
あんなパンデミックがあったあとだし、すぐに親友になるのはきっと難しいだろう。
(※細菌とウイルスは、またぜんぜん違う存在だけれど。)

でも、ドキンちゃんのことを思い出してみたい。
彼女は、アンパンマンの仲間ではない。

でも、常にばいきんまんの仲間というわけでもなさそうなのだ。

日和見という言葉も彼女には似合わない。
ドキンちゃんは、そのときそのときで自分の心の赴くままに生きている。

私はドキンちゃん
なるべく楽しく暮らしたい
お金はたくさんあるのがいい
おいしいものを食べたいし
遊んで毎日暮らしたい
そんな私よ ドキンドキン
わがままなのよ ドキンドキン

私はドキンちゃん/やなせたかし作詞

彼女をコントロールすることなんて、考えないほうがいい。

でも、ドキンちゃんの存在は、アンパンマンとばいきんまんの架け橋になるかもしれないんじゃないかと、私は思っている。

2013年に亡くなったやなせたかしさんは、悪役としてのばいきんだけではない、新しいキンの形をドキンちゃんの中に見ていたんじゃないだろうか。

いや、そこまで考えてはったのかどうかはしらんけど。
おしまい。

追伸:
トップの画像は、夫がせっせとオムツに書いているシリーズです。
娘にせがまれて書くうちにめちゃくちゃ上達してた。

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