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『暴走する能力主義ー教育と現代社会の病理』

 今回紹介するのは

『暴走する能力主義ー教育と現代社会の病理』(ちくま新書)

です。著者は東京大学大学院教育学研究科の教授である,中村高康先生です。

 能力主義とは,"meritocracy" の訳語です。"-cracy" とは,「…主義」や「…支配」という意味です。例を挙げれば,

 aristocracy 貴族政治
 democracy 民主主義 
 autocracy 独裁政治
 theocracy 神権政治

などがあります。

 学習指導要領では,小中高問わず,「資質能力」という言葉が数行に一度出てきます。これは "competency" (コンピテンシー)の訳語で,「生物が環境と相互作用する能力」というのが定義です。

 アメリカの外交官に,「同じハーバード大学を出た外交官でも,数年経つと非常に優秀な外交官になる人とまったく使えない人に分かれるのはどうしてか」という話から端を発し,「学校での評価が機能していないのではないか」というところから「コンピテンシー」ということが言われるようになったようです。

 以下の図は,マクレランドの氷山モデルです。

 今までの学校での評価は,この表面上の部分(パフォーマンスの部分)しか評価できておらず,隠された水面下の部分を評価できていないのではないか,ということがOECDにより提唱され,現在の日本の入試改革の中に入ってきたという背景があります。

 さて,この変わりゆく世界の中で求められるのは,「新しい能力」だと言われますが,その「新しい能力」とは,そもそも本当に「新しい」ものなのか,はたして「測定することはできるのか」などについて,「能力をめぐる社会の変容」を踏まえながら,

「いま人々が渇望しているのは,『新しい能力をもとめなければならない』という議論それ自体である」

という筆者の立場から述べられています。現在の教育問題を考えるきっかけになります。

 以下,アマゾンの内容紹介からの抜粋です。

 学習指導要領が改訂された。そこでは新しい時代に身につけるべき「能力」が想定され、教育内容が大きく変えられている。この背景には、教育の大衆化という事態がある。大学教育が普及することで、逆に学歴や学力といった従来型の能力指標の正当性が失われはじめたからだ。その結果、これまで抑制されていた「能力」への疑問が噴出し、“能力不安”が煽られるようになった。だが、矢継ぎ早な教育改革が目標とする抽象的な「能力」にどのような意味があるのか。本書では、気鋭の教育社会学者が、「能力」のあり方が揺らぐ現代社会を分析し、私たちが生きる社会とは何なのか、その構造をくっきりと描く。

 上記にあるように,教育問題を「社会学的視点」から捉えているので,社会学に興味がある人も必見です。

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