【ファッションロー】Tシャツデザインの模倣(東京地判令和5.9.29)



Tシャツのデザインが模倣されたら?

Tシャツには、そのブランドのロゴマークやイラストなど、様々なデザインがプリントされることが多いですよね。
そのデザインが模倣されて、第三者が同じデザインのTシャツを販売していた場合、どういった請求ができるでしょうか。

今回紹介する裁判例(東京地判令和5.9.29)はまさにそのような事件です。
原告は、「水に浮かぶビーチマットの上で、サングラスをかけてうつ伏せで寝そべる水着姿の金髪の女性」のイラストをプリントしたTシャツを販売しており、このイラストを模倣されたとして、被告に対して訴えを提起しました。

本記事では、
①Tシャツのデザインの著作権に基づく請求ができないか、
②そのデザインについて登録されている商標権に基づく請求ができないか
という2点に絞って検討したいと思います。

請求その1 著作権に基づく請求

実用品に著作権はある?

Tシャツのデザインについて著作権を持っているのであれば、「パクリはよくないですぞ」と、著作権に基づいて何か言えないでしょうか。

写真の著作物についてのこちらの記事でも説明したように、ある表現が著作物として認められるためには、創作者の何らかの「個性」が表れている必要があります。

https://note.com/syakawaka/n/nfed3fed8882b

Tシャツのデザインについても、「何らかの個性があればいいのでは?」とも思えますが、ここで一つハードルがあります。

絵画ような純粋な美術作品と異なり、Tシャツは実用品です。
こういった、実用品(応用美術)を著作権法で保護しても良いのか?という議論があります。
裁判例で争われたものでいうと、子供用の椅子(知財高判平成27.4.14)、ゴルフシャフト(知財高判平成28.12.21)スティック型加湿器(知財高判平成28.11.30)、子供の練習用のお箸である「エジソンのお箸」(知財高判平成28.10.13)などです。

裁判例も錯綜しており、未だ統一的な考え方(最高裁判例や立法)がない状態です。しかも、この点に関しては、知財高裁において異なるような考え方が示されたこともあり(知財高判平成26.8.28、知財高判平成27.4.14)、ますますよくわからない状態です。

同じ裁判所で違うこと言うなんてありかよ」とも思いますが、そういう現状である以上、仕方ありません。

今回のテーマであるTシャツ等の服のデザインについてはどうでしょうか。

裁判例

1 タンクトップ胸部の花柄の刺繍のデザイン(大阪地判平成29.1.19)
 裁判所は以下のとおり判断し、応用美術に含まれることを認定したうえ、具体的に検討した結果、著作物性を否定しました。

「花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ・・・(中略)・・・いわゆる応用美術と位置付けられるものである。」
「原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。」

大阪地判平成29.1.19

2 猫のイラスト(大阪地判平成31.4.18)
 他方、こちらは、猫のイラストをTシャツに印刷して販売していた原告が、そのイラストを模倣したデザインを印刷した衣服等を販売していた被告を訴えた事件です。以下のとおり、そもそも応用美術に含まれること自体を否定しています。

「原告イラスト作成後,それを広めるために,あるいは商業的に利用するために,Tシャツ販売サイトを介して,原告イラストを付したTシャツを販売したことが認められるが,これは原告が創作した美術の著作物を用いたTシャツを販売したにすぎないから,このことは,原告イラストの著作物性を否定する理由とはならず,原告イラストが応用美術に属するも のとして,その著作物性を否定する被告の主張は,採用できない。」

大阪地判平成31.4.18

3 比較
 タンクトップに表現された花柄の刺繍は、まさに衣服の上に表現することを前提として作成されたものであるのに対し、猫のイラストについては、イラストとして作成したものをTシャツに印刷したにすぎず、Tシャツという実用品を離れて、そのイラスト自体の創作性を認めることができた、という違いがあるのではないでしょうか。

 なんとなく、基準が見えてきたような気もします。

請求その2  商標権に基づく請求

商標権の侵害

今回の裁判例では、前記女性のイラストについて、原告が商標登録をしていたため、商標権侵害に基づく請求もなされています。

あるマーク(商標)について商標登録している者は、当該マークと同一・類似のマークを、当該商標が登録されている商品(指定商品)と同一・類似の商品に使用する者に対して、差止め請求や、商品の廃棄請求をすることができます(商標法36条、37条)。また、商標権侵害に基づく損害賠償請求も可能です(民法709条)。

そして、詳細は省略しますが、原告が商標登録していたイラストと、被告が使用していたイラストについて、外観が類似し、観念は同一であるとして、類似性を認めました。

商標的使用論(商標法26条1項6号)

商標登録されているイラストと類似するイラストを使用していたのであれば、「もうアウトなんじゃね?」とも思えますが、本裁判例では、もう1つの論点について議論されています。

被告の言い分はこうです。
「被告がTシャツに使用している女性のイラストは、あくまでTシャツのデザインであって、出所を示すものとして使用していないのだ。」

少し難しいですが、商標には、自他商品識別機能があると言われています。例えば、ナイキのマークが付けられた靴を見た人は、「おっ、ナイキの靴やん」と認識しますよね。このように、当該マークが、他の同種商品と識別させる標識として、出所を示す標識として、働くのです。このような機能のことを、自他商品識別機能、出所表示機能といいます。
そうすると、こういった商標権の機能を害さないような方法で登録商標を使用する行為には、商標権の効力は及ばないのです。
商標法26条1項6号は以下のような条文です。

(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

裁判例

本件同様、衣服上のデザインで、商標的使用論が争われた裁判例として、東京地判平成24.9.6(SURF’S UP事件)を紹介します。
この事件では、原告が有する「SURF’S UP」という登録商標と同じ文言を、被告がTシャツ前面に印刷して販売したことについて、原告が商標権侵害であると主張して訴えを提起しました。
しかし、裁判所は以下のように述べて、被告による原告商標の使用は、商標的使用にはあたらないとし、原告の請求を全て棄却しました。
引用部分は少し長いので、以下の2点に要約します。

⑴「SURF’S UP」という言葉は、原告の造語ではなく、ありふれた表現である(なお、SURF’S UPは「いい波が来た」という意味だそうです。)。
⑵  被告の商品(Tシャツ)には、「SURF’S UP」の他に、被告自身が商標権を有する「GOTCHA」の文字も記載されており、この被告の商標は相当程度の周知性を有する。
 ⇨ そのため、需要者としては、「SURF’S UP」よりもむしろ、「GOTCHA」という被告商標に着目するでしょう、ということです。

被告標章は,胸元に目立つように表示され,その中でも「SURF'S UP」の部分が大きく表示されているが,「SURF'S UP」は, 原告の造語などではなく,サーフィン関連のものとして,一般にも,また,Tシャツ等にもしばしば使用されるありふれた表現であり,需要者がその標章により原告の商品であると認識するなど,それが原告の商標として周知又は著名であると認めるに足りる証拠もないから,それ自体が有する出所識別力はもともと弱いものということができる。

東京地判平成24.9.6(SURF’S UP事件)

そして,被告標章は,「SURF'S UP」のみからなるものではなく, その「P」の縦棒部分には,白抜きで「GOTCHA」の文字が「C」を左右反転させた人目を引く形態で配され,また,「UP」の上部には波の図やGマーク商標が配され,これらが一体として表示されているものである。Tシャツの出所が一般に表示される襟ネームや前身頃の裾付近に付された2か所のタグには,胸元に付された「GOTCHA」の文字やGマーク商標に対応するGOTCHA商標やGマーク商標等が付され,襟ネームの下方にも 「GOTCHA」の文字が記載され,背面側にもGOTCHA商標2等が表示されていて,商品タグにも「GOTCHA」の文字やGマーク商標が記載されている。これに対し,「SURF'S UP」は上記の胸元部分以外に は表示されていない。こうした表示態様に照らすと,被告商品に接した需要者は,被告商品を,「SURF'S UP」なるブランドのものとしてではなく,むしろ「GOTCHA」というブランドのものと認識するものと考えられる。とりわけ,被告が,「GOTCHA」の名を冠したサーフィンの大会を協賛し,雑誌にも「GOTCHA」や被告の各商標を頻繁に掲載してい ることからすると,被告の「GOTCHA」や被告の各商標は,サーフィン愛好家はもちろんのこと,被告商品の需要者と考えられる10代から20代の若者の間においても相当程度周知性を有すると推認される上,被告商品は,被告やその関連会社の直営店で,「GOTCHA」と明示される態様で販売され,かつ,それらの店舗では被告やその関連会社以外の商品は取り扱われていないから,被告商品の胸元に「SURF'S UP」が目立つように表示されているとしても,被告商品に接した需要者は,「SURF'S UP」ではなく,むしろ「GOTCHA」によってその出所を識別するのが普通であると考えられる。 そうすると,被告標章における「SURF'S UP」の表示は,商品の出所識別機能を果たす態様で使用されていると認めることはできないから, 被告標章の使用は本来の商標としての使用には当たらないというべきである。

東京地判平成24.9.6(SURF’S UP事件)

東京地判令5.9.29はどうか

著作権に基づく請求(応用美術について)

今回紹介する裁判例も、Tシャツにプリントされたイラストが問題となっています。
被告(訴えられた側)は「応用美術だから、著作権はない」と反論しています。

先ほど紹介した猫のイラストの裁判例(大阪地判平成31.4.18)とは異なり、本裁判例では女性のイラストについて応用美術であることは認めつつ、応用美術の場合の著作物性の判断基準として、以下のとおり述べました(この基準は、先ほど紹介したタンクトップ上の花柄の裁判例(大阪地判平成29.1.19)と同じ基準です。)。

実用性が当該有体物の機能に由来することに鑑み、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるか否かという基準によるのが相当である。

東京地判令和5.9.29

今回の裁判例では、以下のとおり、割とあっさりと著作物性が認められました。

「原告イラスト2は、Tシャツ等の衣類の胸元等に印刷されていたことが認 められるところ、当該Tシャツ等が上衣として着用して使用するための構 成を備えていたとしても、イラストとしての美的特性が変質するものではなく、また、当該Tシャツ等が店頭等に置かれている場合はもちろん、実際に着用されている場合であっても、その美的特性を把握するのに支障が生じるものでもないから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構 成と分離して、美術鑑賞の対象となる美的特性を把握することが可能」

東京地判令和5.9.29

Tシャツからイラストを分離したとしても、1個のイラストとして、独立して美的鑑賞の対象になれる、というイメージです。

イラストや写真など、Tシャツにプリントされたとしても相変わらずイラストや写真として鑑賞な対象になり得るようなデザインについては、応用美術の論点にもかかわらず、著作物性は認められそうですね。

商標権に基づく請求(商標的使用論について)

先ほど説明した商標的使用論について、裁判所は以下のとおり判断しました。

「原告は、原告ブランドの店舗開店当初から、 原告商標を、同店舗のポスター、看板、Tシャツ、パーカー、アクセサリー等に印刷して使用していたこと、令和元年頃には、横浜、東京、千葉、名古屋等に常設又は臨時店舗を開設し、同店舗及びオンラインショップで、原告商標が印刷された商品を販売していたことが認められる。 また、前提事実⑷イのとおり、原告は、他のアパレル会社等とコラボレーションをし、原告商標を改変したり、同イラストの下部又は右下部にコラ ボレーションをしたアパレル会社のブランド名を記載したりしたものをTシャツ等の胸元に印刷して、販売することがあった。これらの事実に照らせば、原告商標は、これを付した製品の出所を示すものとして、一定の知名度を有していたと認められる。そして、被告は、前記4のとおり、原告商標と誤認混同のおそれがある被告標章を、前提事実⑸のとおり、被告製品に付して使用していたのであるから、被告標章の使用は、自他識別機能を果たす態様での使用であるといえ、商標的使用に該当するというべきである。」

東京地判令和5.9.29

割とあっさり、商標的使用であることを認めました。なお、被告の反論については、以下のとおり排斥しました。

これに対し、被告は、被告製品は被告標章が胸部の中央に大きく印刷されたものであるところ、需要者は、通常、Tシャツの首後ろ部に印刷された被 告シリーズの名称や、被告製品販売時に付された紙製のタグにより被告製品 の出所を認識するから、被告標章により出所を認識するものではなく、被告 標章は自他商品識別機能を果たさない態様で使用されていたと主張する。 しかし、商標がTシャツの首後ろ部の表示やタグだけではなく、胸元に大きく付された商品も多く存在すると認められること(当裁判所に顕著な事実)に照らすと、需要者がTシャツの首後ろ部に印刷された名称や紙製のタ グにより被告製品の出所を認識するとの事実を直ちに認めることはできない というべきであり、本件全証拠によっても、被告主張の事実を認めることは できない。

東京地判令和5.9.29

たしかに、Tシャツの出所(ブランド等)については、Tシャツに付されたタグ等から認識されるものであって、Tシャツの胸部中央に印刷されたイラストは単なる「デザイン」であり、出所を表示するものではない(商標的使用とはいえない)とも思えます。しかし、裁判所は、「商標が胸元に大きく付された商品も普通にあるでしょ」という理由で、被告の反論を排斥しています。

さいごに

以上のとおり、今回の裁判例では、原告の被告に対する、著作権・商標権に基づく請求を認め、被告に対し、①販売等の差止め、②約90万円の損害賠償、③被告商品の廃棄、④画像データの削除を命じました。

これまで述べたとおり、色々とハードルはありますが、著作権や商標権、なかなか強力です。

著作権や商標権に基づく請求の場合、原告に生じた損害についても、独特な考え方があります。この裁判例でも緻密に検討されているところですので、損害論についても、また別の記事でご紹介できればと思います。


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