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オリンピックは青少年を幸せにするの?2010バンクーバー五輪がカナダの青少年にもたらした影響

唐突ですが、トレンドとしては
多くの都市がオリンピック招致を諦めています。

主要な理由としては
お金がかかりすぎることです。
実際、経済効果に着目した研究でも
基本的には「五輪招致の投資は回収できない」
というエビデンスがよく報告されています。

しかし、経済効果だけがオリンピックではありません。
例えば、オリンピックのおかげで
スポーツ参加率が上がるのでは?とか
人々のつながりが醸成されるのでは?とか
様々な効果が議論されています。

今回紹介するのは
経済効果ではないオリンピックの効果です。
その中でも近年トレンドになっているのが

開催都市住民のウェルビーイング

です。

今回紹介する研究は
住民のウェルビーイングの中でも
青少年に着目したものです。
立ち上がったのはカナダはオタワ大学を
代表とした研究チームでした。

研究チームはカナダ政府が毎年行っている
Canadian Community Health Survey (CCHS)
のデータを活用しました。
ちなみにクロスセクショナルアンケートです。
※クロスセクショナルデザインとは?っていう方は
以下の記事も読んでみてくださいね。

具体的には、12-19才のカナダの青少年に着目して
2010年に開催されたバンクーバー五輪の
開催年と前後を含めた4年間のデータを使いました。

その中でも注目した変数は
- 社会的ウェルビーイング
- 主観的ウェルビーイング
です。

社会的ウェルビーイング
コミュニティーの帰属意識(Sense of Belonging)
として4段階で測定されています。

主観的ウェルビーイング
人生の満足度(Life Satisfaction)
として5段階で測定されました。

測定のタイミングは以下のような感じです。

2007-08 (開催前)
2009-10(開催年を含む年)
2011-12 (開催後)
2013-14 (開催2年後)

この研究の良いところは
カナダの青少年のウェルビーイングが
向上したのかを
エリアごとにも検証した点にあります。

具体的にどのエリアでウェルビーイングが向上したのか検証
1. カナダの国家レベルで向上?
2. バンクーバーの開催週レベルで向上?
3. 広域バンクーバーで向上?
4. バンクーバーの特定の街で向上?

結果発表!

開催都市の一エリアであるノースショアで、青少年の社会的ウェルビーイング向上

ノースショアというエリアは
競技が行われた場所から結構近いエリアです。
この地域における青少年の社会的ウェルビーイング
つまり「人と繋がっている感覚」が
バンクーバー五輪開催後からその翌年にかけて
有意に高まりました。

開催都市の一エリアであるリッチモンドで、青少年の主観的ウェルビーイングが向上

同様にして、リッチモンドというエリアでも
青少年の主観的ウェルビーイングの向上が
認められました。
ただし、このオリンピックによる効果は
開催前の年から開催年にかけて認められた効果です。
つまり、青少年が五輪を楽しみに感じたり
開催前に建設されたインフラによる効果と
解釈することもできそうです。

興味深いことに、この時期における
五輪がもたらす主観的ウェルビーイングへの効果は
国家レベルでも認められました。
五輪は、開催前から大きなインパクトをもたらすのですねー

しかし研究チームはこう言います。
人間には「快楽のトレッドミル」が存在する。
つまり、幸せな経験もその時を過ぎれば
忘れ去られてしまうということです。

この向上したウェルビーイングをキープするには
規模が小さくても良いので
五輪のリソースを使い続けて
コミュニティに刺激を与え続ける必要があるのでしょう。

Teare, G., Potwarka, L. R., Bakhsh, J. T., Barrick, S. J., & Kaczynski, A. T. (2021). Hosting the 2010 Vancouver Olympic Games and wellbeing among Canadian youth. European Sport Management Quarterly, 21(5), 636-657.

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