武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論2 第13回 藤井保文 氏

20200810 藤井保文 氏

株式会社ビービット
東アジア営業責任者/エクスペリエンスデザイナー
1984年生まれ。東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 修士課程修了。
2011年ビービットにコンサルタントとして入社。
2014年に台北支社、2017年から上海支社に勤務し、現在は現地の日系クライアントに対し、UX志向のデジタルトランスフォーメーションを支援する「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を行っている。
2018年8月には『平安保険グループの衝撃―顧客志向NPS経営のベストプラクティス』を監修・出版。
2018年9月からはニューズピックスにおいて、中国ビジネスに関するプロピッカーを務める。
2019年3月に「アフターデジタル-オフラインのない時代に生き残る」を出版し、世耕元経済産業大臣をはじめ各界著名人からの推薦を頂いている。現在8万5000部を超えるヒットとなっていることから続編発売が決定(7月末予定)し、執筆原稿は一般公開している。事例・方法論を随時アップデートし、アフターデジタル時代のUX/DXの道標を示していく。
また、政府の有識者会議参画、FIN/SUM、G1経営者会議など「アフターデジタル」におけるアドバイザリや講演活動も多数行っている。(株式会社ビービット著者紹介ページ https://www.bebit.co.jp/news/article/20200716 より引用)


1 中国(上海)の体験と「OMO」

はじめに、藤井氏自身の上海での経験から、デジタルが浸透した社会についてのリアルなお話を伺った。上海では、「リアルの中にデジタルがある」というのではなく、もはや「デジタルの中にリアルがある」という状況だそう。今まで日本では、別世界の様子と思われていたが、今回のコロナ渦によって、日本でも現実感をもつ内容となった。

デジタル中心の世界だからこそ、信頼の構築や感動にはリアルな接点が重要となる。顧客の行動データを取得、活用することで、最適なタイミングでのコンテンツやコミュニケーションの提供が可能になる。まさに、「行動データ」の時代であり、企業間の競争は、「製品」から「体験」に移行している。そこで有効なのが、オンラインとオフラインを分けずにシームレスに捉える「OMO(Online Merges with Offline)」という考え方だが、日本では未だ浸透していない。今後は、産業構造のトップにいたメーカーが最下部、その上にUXを提供するサービサー、その上に決済から顧客の情報を把握する決済プラットフォーマーが位置するようになる。体験を起点として、品質の高い体験を提供することができることが重要な社会では、メーカー→サービサー→決済プラットフォーマーという産業構造が成立する。しかし、日本企業の現状は、データありきに拘り、品質の高い体験を創造することが苦手である。


2 産業構造変化の先

OMO時代の到来により、ウェブ上の設計にすぎなかったUXが、社会における行動モデルの提案を担うようになったことで、企業が社会変革に関わる可能性が出てきた。その具体例として、アリババとタクシー配車サービスのDiDiを紹介していただいた。アリババでは、良い行動をすると「信用スコア」が蓄積されるようにしたことで、そのスコアを獲得しようと、人々の行動に変化が起きて、民度が上がった。また、DiDiではドライバーをスコアリングすることで、サービスが向上した。一見すると、良いことのように見えるが、自由を侵害したり、誘導したりするリスクもある。またデータの利用の仕方を誤れば、規制が発生して取り締まりが起こる恐れもある。


3 まとめ:アフターデジタルの世界

中国では、負からの解放的な文脈においてアフターデジタルが加速していった。しかし、多様化した価値観があり、人口も中国ほど多くない日本においては、自己実現を助ける「Liberty獲得」的な文脈で進む必要があると言う。OMOの時代になったことで、企業がデジタルとデータを活用して世界を創造することができるようになった。企業ができるということは、企業でなくとも「同様な集団」は、自分の思うような世界を創ることが可能であるということである。誰もが、自分の理想とする世界を創造できる可能性があるからこそ、公共の視点をもって善悪を判断できる「自由」と「自立」の精神が求められる社会である。やはり「技術」は使い方である。話を伺って、デジタル化が加速すればするほど、ある部分では、人間性、人間らしさ、公共心・道徳心といったものが重要になっていくパラドックスを感じた。

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