武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論2 第8回 大橋磨州 氏

20200706 大橋磨州 氏

慶応大文学部卒業後、東京大学大学院に進学。修士論文の「フィールドワーク」にてアメ横へ触れ、中退。その後、アメ横の魚屋にて修行を積み、2013年に呑める魚屋「魚草(うおくさ)」を開店。


1 大橋氏にとっての「アメ横」

まずは、大橋氏による上野やアメ横のイメージについて説明をいただいた。「東京の玄関口(上野)に位置する」、「安売りの街」、「個人事業主、商売人が多い」、「品揃えが豊富」、「外国人屋台が多い」、「人情の街」、「歳末の大売り出しが有名」といったところである。また、「江戸の鬼門であり東京の辺境」、「築地では取り扱えない海産物が届く」、「行き場や居場所がなく、一瞬の場を得ている人が多い」といったことも特徴であると言う。確かに、上野界隈は下町で雑多、アンダーグランドでアブノーマルな独特な文化を感じて私も好きだ。

大橋氏が、アメ横に関心をもつことになったきっかけは、秋田の祭りの風景とアメ横が重なったことだと言う。東大大学院時代に人類学の研究のために行った秋田で、お祭りに人々が集まって生き生きしている様子が心に残った。東京に戻り、年末にアメ横の魚屋でアルバイトをした。そのとき、自分自身が祭りに参加しているような気持になり、秋田とアメ横がリンクした。それから、大橋氏はアメ横を愛するようになったのだ。


2 アメ横に店を構える理由

アメ横に店を出す理由は、アメ横という街の一部になるため。そして、「居場所」となるためである。大橋氏の店では、サメの心臓やエイの肝など、スーパーなどにはなかなか売っていないものを提供している。なぜなら、お客さんにマイナーな魚を提供することで、新しい魚の魅力を伝えることになる。また、業者や漁師にとっても価値のなかった魚に価値が生まれて仕事に繋げられるためである。つまり、お店に関わるみんながWIN-WINの関係になる仕組みを作り出しているのである。

どんな者でも受け入れるという懐の深さがあるアメ横に店を構え、人と人とを繋ぐハブになり、街全体を盛り上げていこうとする大橋氏の哲学があった。


3 まとめ:この先のアメ横

大橋氏の哲学が、魚を売るだけの店ではなく、魚をあてに呑める店となり、今では音楽やアートまでを提供する店になっている。「人間味」を徹底的に追求したことで、単なる魚屋という域を超えて、唯一無二の店となったのである。まさに、イノベーションである。

特に、AIや科学技術が発達している現代においては、人間しかできないことに注目が集まっている。いわば、究極の「人間味」を問われている時代と言える。そう考えると、さまざまな生き様が交錯する上野の街で、さまざまな人々が集まる場所(魚草)を営んでいる大橋氏は、古くて新しいイノベーターなのだと思う。

私個人も、「人間味」のあるものは大好きで、マイナー文化やアンダーグラウンドな街などには大変興味がある。そういったものには、決して効率的とは言えないが、機械では表現できないエネルギーがある。人と関わる教職にいる者としても、とてもよい刺激になった。

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