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事例「おいしい牛乳」:ヒット商品なのに商標登録できなかった名称


商標登録は「早い者勝ち」だけでは決まらない

商標登録は早い者勝ち。

さすがにこれは知っている人が多いと思う。

商標法は「先願主義」。早い者勝ちのルール。同じジャンルで、似たような商標を登録したい人が複数人いたら、特許庁に一番最初に商標登録の出願書類を出した人に優先権がある。
先に使っていようが、ちょっと有名だろうが関係ない。特許庁は一番最初に手を掲げた人に商標権を与えるんだ。

でもね。「まだ誰も出願していないぞ」、「自分が一番だ」と思って出願しても商標登録できないケースがある。

商標登録は「早い者勝ち」だけでは決まらない。一番乗りなら必ず商標登録できるわけじゃないんだ。

商標登録のための大事な条件「識別力」

商標登録を出願した場合、商標法に定められた「拒絶理由」に該当しなければ審査はOK、登録査定が届く。その後、30日以内に登録料を納付すれば正式に商標権が与えられる。

でも、拒絶理由は「先願(誰よりも先に出願していること)」だけではない。他にもたくさんある。
特に気をつけて欲しいのが「識別力」という条件だ。

ざっくり言えば、「商品やサービスの内容説明にすぎない名称は登録しないよ」という条件。

商標は、

  • その商標が表示されていることで、どこの会社の商品やサービスかがわかる(出所表示機能)

  • それの商標が表示されている商品やサービスなら安心して購入することができる(品質保証機能)

これらの機能を発揮させるための表示・シンボルだ。名前とかマークとかね。その商標が付いていても、他社の商品やサービスと区別できないようであれば、そもそも商標として機能しない。
そういう商標は登録しないよ、というのが識別力の条件だ。

例えば、「山田特許事務所」という名称は商標登録できない。

山田弁理士は日本中に何人もいる。「山田特許事務所」と言ったってどの山田先生の事務所かわからない。そして、例えば僕が「山田特許事務所」を商標登録して独占してしまうと、他の山田先生が「山田特許事務所」というありきたりの名称を使えなくなって困る。
だから、誰が出願しても特許庁は商標登録しない。仮に一番乗りで商標を出願しても商標登録されないということ。

「おいしい牛乳」も「サラダチキン」も商標登録できない。識別力がないから

ヒット商品でも商標登録できなかったケースがある。

例えば、「おいしい牛乳」。

牛乳屋さんなら誰でも言うじゃない。うちのは「おいしい」って(笑)
誰もが使う当たり前の表現だから商標登録されない。独占できない。
明治も森永も「おいしい牛乳」を売ってる。どちらも独り占めはできなかったってことだ。

でも、実は、「明治 おいしい牛乳」、「森永のおいしい牛乳」という形で商標登録されている。会社名が入っていれば、どこの商品かわかるから。
一方、グリコが出した「那須高原のおいしい牛乳」など、地名と組み合わせた商標は軒並み拒絶されている。那須高原の酪農家の人たちはみんな使いたい表示だから。グリコが独占することは許されない。

「サラダチキン」も似たような感じ。

「サラダチキン」だけでは商標登録できなくて、「ニチレイ サラダチキン」とか、「アマタケ サラダチキン ライト」みたいな形で商標登録されている。

商標登録について弁理士に相談するなら、名前を決める前がよい

うちに相談にくる人は既に名前を決めていて、それを「商標登録したい!」とやってくる。

順番が逆じゃないの?

商標登録をしたいと思っています。どういう名前がいいですか?って相談に来て欲しい。その方がアドバイスの余地があるから。
既に名前が決まっているなら、登録の可能性が低くてもダメ元でそれを出願するしかないじゃない。

商標登録をしたいなら、識別力がある良いネーミングを考える。ネーミングをするなら商標登録のことも考える。似たような名前が既に登録されていないか出願の前に調査をする。
弁理士なら当たり前。でも、一般の方はそういうことを知らない。だから、まずは専門家である弁理士に相談してみることをオススメしますよ。

「おいしい牛乳」の商標登録について詳しく知りたい人はこの記事を読んでみてください。

「おいしい牛乳」が商標登録されない理由。明治と森永が商標登録できた理由