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二人だけの海

波照間島で過ごした星空の夜は、ウサギとカメにとって時間が止まるような体験だった。目を閉じれば今でも、瞼の裏には満天の星があざやかに蘇る。

翌朝は波が穏やかになり、ウサギとカメは波照間島から石垣島へ向かう船の中にいた。ウサギは「泡波」という珍しい泡盛を愛おしそうに抱えていて、「波照間といえば、これがなくちゃね」と、どこか遠い世界を思い浮かべるようにつぶやいた。

石垣島に到着した二人は、車で島を北に進んだ。ウサギは見知らぬ南国の街並みを窓から眺めながら、「サンゴ礁や熱帯魚に会いたいな」と、どこか別世界に迷い込んだように囁いた。ハンドルを握るカメは、「この先に、美しいビーチがあるからね」と眩しそうに目を細めた。

車から降り、米原ビーチに向かう細い道を抜けると、二人は目の前に広がる透き通る海に言葉を失った。ウサギは「こんな海、初めて見たわ」と小さく叫ぶと、「驚くのはこれからだよ。幻想的な世界が待っているからね」とカメはいって、彼女にシュノーケルを手渡した。

手を取り合ったウサギとカメは、その透き通った海へと足を踏み入れた。ゆっくりと深くなる白砂の海岸は、やがて珊瑚礁を乗せた岩場に変わった。二人の目の前をマンタが悠々と横切り、色とりどりの熱帯魚が、不思議そうに二人を見守った。二人はゴーグル越しに目を合わせ、ゆっくりと息を吸った。

この時、この海は二人だけのものだった。

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