道はここから始まる
その日、ウサギとカメは、車のエンジン音が絶え間なく響く中、じっと道路の中央に視線を向けていた。そこには、気づかないほど道路と同化した不思議な印があった。その印はまるで何かを語りかけているかのように、静かに存在感を放っていた。
「ほら、あそこにある」とカメが静かに言った。その声は、車のエンジン音にかき消されることなくウサギの耳に届いた。彼女は目を細めて、道の中央をじっと見つめ、「本当にこんな場所に…」とつぶやいた。
「つまり、あのマンホールみたいなものが、道の出発点ってわけね」
「日本橋が初めて架けられたのは、江戸幕府が成立した1603年のこと。時を同じくして、幕府はこの橋を五街道の始点と定めたんだ」と、カメは語った。
日本橋の北西にある小さな広場へと足を運ぶと、そこには「印」の由来が記されていた。「これがあの印のレプリカだね。『日本国道路元標』って書いてある」と、カメは興味深そうに見つめた。
「道の始まる所って、そんなに重要なの?」ウサギは首をかしげながら、少し戸惑った表情で尋ねた。
「道を歩いているときに、日本橋まで何キロとか、東京まで何キロって標識を見たことはない?」とカメが問いかけると、ウサギは頷いた。「その標識に書かれている『東京』って、実はこの場所なんだ」とカメは続けた。ウサギは驚きで目を見張った。
「ここが、その『東京』なのね…」
ウサギは、道の始まりの意味を胸の奥で探し求め、そして、ふっと微笑んだ。
「じゃあ、私たちの物語も、またここから始まるのね」
カメはその言葉に一瞬驚いたものの、ゆっくりと頷いた。「これからもよろしくね」彼の声はどこまでも穏やかだった。
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