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しずくのぼうけん

今朝は雨が降っている。ウサギは部屋の窓辺に座り、じっと雨の音に耳を傾けていた。彼女の目の前で窓ガラスを伝う水滴は、それぞれが小さな旅をしているかのようにゆっくりと動いていく。窓から見えるいつもの景色は、雨の日は少し特別に見える。彼女は、そんな雨の日が好きだった。

ウサギはふと思い出したように、本棚から一冊の本を取り出した。「雨の日に読むなら、この本だね」と彼女は呟いた。その本の表紙には、一輪の赤い花を空に掲げながら微笑む「しずく」の姿が描かれており、手書きの文字で、マリア・テルリコフスカ作、「しずくのぼうけん」と書かれていた。

彼女は、いつの間にか絵本の世界に引き込まれていた。ページに描かれている「しずく」の生き方が、なんとなく自分の人生と重なるように感じられた。現実の世界でも、何かに汚れてしまうことがあるものだ。それを乗り越えて前に進もうとするところが、「しずく」と私には共通しているわね、と感じていた。

「しずく」は、おひさまに照らされて蒸発し、雲に乗ってから雨になって地面に戻る。夜には凍って、川に流され、気づけば洗濯機の中にいる。「そうそう、『しずく』もいろいろ大変なのよね。子どもの頃にそう思ったわ」とウサギは思い出しながら、優しい笑みを浮かべた。

春が来たら、「しずく」はまた冒険の旅に出るだろう。そんな期待感を残して、物語は幕を閉じた。窓の外では、春の雨がしとしとと降り続いていた。「春になったから、私も元気よく飛び出さないとね」と、ウサギは絵本を抱きしめながら、静かに目を閉じた。

※しずくのぼうけん
マリア・テルリコフスカ・作/ボフダン・ブテンコ・絵/うちた りさこ・訳/福音館書店

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