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フィニッシュテープ

バイクを終え、重い足を引きずってトランジッションエリアに入ったウサギは、ボトルの水を飲みながら、バイクラックを探した。

「ずっとDHバーを握ったままだったから、身体が固まっちゃったわ」ウサギはゆっくりと肩を回した。「バイクがこれだけあるってことは、みんなはランに入っているのね。もちろんカメくんも」

ウサギは大きく深呼吸をした。そして手際よくランシューズに履き替えると、佐渡トライアスロンのランコースへと軽やかに足を踏み入れた。「フルマラソンは距離が長い分、抜けるチャンスもたくさんあるわね」

ウサギはまるで羽根が生えたように軽やかに駆け出した。前を行くアスリートが次々と、彼女の後ろに消えていく。

「ここからが本番よ」彼女は前を見据え、口元に小さな笑みを浮かべた。

エイドステーションに近づくと、彼女はスポーツドリンクを少しだけ口に含んだ。エネルギーが全身に行き渡るのを確かめると、その足は止まることなく前へと進んだ。

ウサギは長い髪をなびかせながらスピードを上げるが、どれだけ走ってもカメの背中は見えてこない。いくら頑張っても、その姿はまだ遠いままだった。

カメは残り1キロの地点を走っていた。佐和田商店街に差し掛かると、ゴールへ向かうアスリートの名前が、次々とアナウンスされていた。自分の名前が呼ばれた瞬間、彼は反射的に振り返った。しかし、ウサギの姿はどこにも見当たらなかった。

カメはウサギのことが気にかかりながらも、ひたむきに走り続けた。遠くにフィニッシュテープが見え始めたその時、スピーカーから彼女の名前が聞こえた。振り返ると、今度はその姿がはっきりと目に飛び込んできた。

短距離走のようにスピードを上げたウサギは、一瞬でカメの横に並んだ。コースの両側から大きな歓声が上がる中、二人は手をつないでフィニッシュテープを切った。

金色に輝く完走メダルが、二人の首元で静かに揺れていた。言葉はもう必要なかった。視線が交わるだけで、心の奥にあるすべての感情が確かに伝わっていた。

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