涼やかなガラスの絵
静かな図書館の書架の間を、ウサギは一人さまよっていた。何かを探し求めるように熱心に本の背表紙を眺めているところへ、ゆっくりとした足取りでカメが近づいてきた。
「何を探しているの?そんなに夢中になって」カメは優しく問いかけた。
「朝から暑くてたまらないわ。だから、涼しげなステンドグラスの写真でも見て気分を変えようと思ったの」ウサギはぼそりと呟きながら、そっと彼に視線を投げかけた。
「それなら、分類番号751.5のガラス工芸の棚にあるはずだけど、せっかくだから実物を見に行こうか」カメは優しく微笑んで、そっと手を差し出した。
二人は電車に飛び乗り、都立大学駅で降りた。汗を拭きながら歩いていると、やがてサレジオ教会の白亜の鐘塔が目に入ってきた。
重厚なロマネスク様式の大聖堂の中は、美術館のように静かで厳かな雰囲気が漂っていた。天井まで高くそびえるアーチにはフレスコ画が描かれ、彩り豊かなステンドグラスは幻想的な光を放っていた。
「このステンドグラスはイタリア製なんだ。遠くイタリアから船で運ばれてきて、ここでイタリアの職人がひとつひとつ心を込めて取り付けたんだ」と、カメは穏やかな声で説明した。
「ステンドグラスは、9世紀のヨーロッパで聖書の内容をわかりやすく伝えるために作られたのが始まりなんだよ」カメはそう言って話を続けた。
ウサギはそっと天井を見上げた。
「天井の絵の雰囲気も素敵ね。それに、本物のステンドグラスはやっぱり涼しげだわ。そして、この聖堂の厳かな雰囲気が暑さを和らげてくれる気がする」
二人は寄り添いながら、涼しげに輝くステンドグラスのきらめきを、いつまでもじっと見つめ続けていた。
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