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終わりのない物語

静かな夜に星が瞬く中、カメはいつものように本を開いた。ページは無数にあり、言葉は宇宙の広がりのように果てしなかった。そこには遥か彼方の銀河系が描かれ、運命に翻弄される主人公たちの物語が、果てしなく繰り広げられていた。

カメにはしばらく前から読み続けている物語がある。世界最長のSF小説と言われる「宇宙英雄ローダン」シリーズだ。1961年に始まったドイツ語の原作は既に3000巻を超えいる。翻訳にはタイムラグがあり、彼が生きている間に結末まで読み終えることはないだろう。

物語を支えるのは世代を超えたプロット作家の存在だ。彼を中心に、これまで何十人もの作家がこの物語をつないできた。その重みがページの手触りから伝わってくる。

物語は人類初の月面着陸による、予期せぬ異星人との出会いから始まる。主人公ローダンの生き様はひたすら一途で、彼を支える多彩な超能力者たちは比類のない強さを持っていた。しかしながら彼らに敵対する異星人はどんどん強力になり、乗り切ったと思ったら、次の強敵が現れる。物語の宿命とはいえ、彼らは一時も休むことが許されず、果てしない戦いに巻き込まれていくストーリーになる。

カメは長い間、彼らの冒険に心を寄せ、自分の感情を重ねてきた。彼らの世界はもはやただの物語の世界ではなく、平行して生きる、もう一つの世界のようだった。

一人の夜、カメはこの物語とともに時を過ごす。この物語は彼にとって終わりのない愛おしいもの。

まるで現実世界のウサギのように。

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