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時を問いかける西洋館
その日、元町・中華街駅から地上に出ると、ウサギとカメはそっと辺りを見回した。中華街の喧騒を背にすると、港の見える丘公園へ向けて、一歩一歩階段を上っていった。
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周りの緑が増えるにつれて、空気はしっとりと柔らかくなった。バラの香りがふんわりと風に乗り、咲き誇る花に囲まれながら、その先にある西洋館を目指した。
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やがて、白い壁に赤い瓦屋根の建物が見えてきた。山手111番館に着くと、二人は靴を脱ぎ、そっと足を踏み入れた。そこにはレトロな空間が静かに広がっていた。
111番館には柱のない回廊や、吹き抜けのホールが広がっていた。風が通り抜け、開放感に満ちていた。「何とも優雅ね」と、ウサギは自分に言い聞かせるように呟いた。
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「ベーリック・ホールのダイニングは天井も高くて開放的だね」とカメが呟くと、ウサギもそっと頷いた。「アーチ状の開口部が華やかね。花びらを刻んだ暖炉も素敵だわ」
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「この辺りは横浜港が開かれた頃、フランスやイギリスの外交官や商人たちが暮らしていたのね。その頃の光景が目に浮かようだわ」と彼女は窓の外に視線を向けた。
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「1872年に新橋から横浜まで日本初の鉄道が敷設されたのは、横浜居留地と呼ばれていたこの場所と、築地にあった居留地を繋ぐためだったんだよ」と、カメは静かに語った。
建物を出ると、現代の風景が再び目の前に広がった。しかし、西洋館の中で心に刻まれた遠い過去の余韻は、二人の脳裏にしっかりと残り続けていた。新旧が交錯するこの場所は、二人に時を静かに問いかけていた。
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