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大乱闘カラオケブラザーズ!

突然だが、皆さんは「大乱闘スマッシュブラザーズ」というゲームを知っているだろうか?超有名ゲームの錚々たるメンバーが戦い合うという、ファンであれば夢のようなゲームである。

故に、私は今から不遜きわまりない本ゲームのパロディー記事を書くことに対して謝罪せねばならない。しかもその再現度というのは、恐ろしく悲惨劣悪なものである。

どうかくれぐれも優しき心を失うこと無きよう、心からお願い申し上げる。

🎵🎶🎵

僕の友達にまともなヤツはほぼいないという事実は周知のことであるが、殊更に厄介な人物が約二名いる。いや勿論数え方は二匹の方が適当なのだけども、最初だけは敬意を払っておこう。

この悪しき二名の友達だが、何処からか『僕が音痴』であるという情報を仕入れてきた。彼らはその見た目とは裏腹に歌が上手く、かつ底抜けにお節介である。自然な流れで、勝手に僕のお歌特訓会が行われる手筈になってしまった。僕には無視という選択もあるにはあったが、大学でカラオケを嗜む仲間がいなかったこともあり承諾してしまったのである。

これが後に『令和の大乱闘』と呼ばれる大事件の発端となったことを、僕は涙失くして語り得ない。


かくして、血を血で洗うような闘いの火蓋は切って落とされたのであった。


Round.1

僕は、カラオケであるルーティーンを持つ。それは、まず始めに『あいうえおおんがく』を歌うということだ。この歌の良いところは、明るいテンポで良い感じに盛り上げることが出来るし、何より発声練習にもなるという点である。早速、いの一番にあいうえおおんがくを入れて歌おうとした瞬間だった。

ちょっと待てぃ!!


合いの手にしては不適切すぎる音声の声と、これまた不適切すぎる内容の言葉が発せられたせいで、僕は思わず歌うのを止めてしまう。その隙に、もう一人の連れが歌いかけの『あいうえおおんがく』を止めた。結局最初の「あ」しか採点できなかった機械は、「ブチッ」と恨めしそうな音を立てて沈黙したのだった。

流石に訳が分からず「何やねん」と抗議する。

だが連れは、「その曲はな、歌が苦手なヤツが最初に歌うようなもんや無い。まずは無理せずゆったりとした曲で歌い始めるのが大事なんや」といかにもな言葉を放った。

確かにその通りだ。僕は納得し、「自分は初めの曲の選び方が分からんから、代わりに決めてくれんの?」と連れたちに頼む。連れは、任せとけと言わんばかりに、息を鼻から吹き出す。そしてタッチパネルを操作すると、僕に何の確認もいれずに曲を入れた。

どんな曲を入れたのだろう?僕は高鳴る鼓動を胸にマイクを持つ。

が、彼らが選んだ曲名が画面に映し出された瞬間、僕の顔は真っ青に青ざめた。

『白日』


最大級に無理する必要があるのだが

確かにゆったりはしているが、気持ち的には全くゆったり不可能だ。というか、始め云々関係なく音痴に白日は無理である。ボーカルのえげつない高音が僕に出せるわけがなく、やけくそになって裏声で叫ぶように歌った。

点数が出る。

64点!

初っぱなから60点すれすれな時点で絶望するのに、無理して裏声を酷使した僕は既に喉がガラガラになっていた。連れどもは深刻そうに腕を組んで虚空を見上げる。彼らは一体どういう気持ちで深刻に悩んでいたのだろう。



Round.2

「君の実力は分かった。俺にちょっと策があるから、ここからも俺らが選曲して良いか?」と、連れは僕に対して言った。

嫌に決まっているでないか。

最初の選曲で、僕は早くも彼らへの信頼を捨てる羽目になったのだ。これ以上無駄に恥をかきたくない。だが嫌だという前に、彼らは僕に背を向け作戦会議を始めてしまった。

そして数分後。彼らは一気に曲をシュパパパパと入れると、「今からここに入れた曲全部歌え」と言ってきた。横暴である。まことに遺憾である。だが、僕は歌になると如何せん発言権が与えられない。仕方なく怒りと悲しみに震える手でマイクを握る。そうして歌う準備をしたものの、次は彼らが選んだ曲の予約リストには度肝を抜かされたのだった。

そこには、

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』

『国歌 君が代』


と映っていた。その画面を一目目撃した一般人は、僕らを狂気の愛国民と見なし、恐れを為して逃げ出したに違いない。当事者の僕でさえ、逃げ出そうとしたぐらいだから間違いないだろう。

それでも、彼らに劣らず僕は狂気じみていたかもしれないのだから実態は残酷である。僕によって尽く音程がずらされた『国歌 君が代』は、もはや日本の曲と思えないレベルで改変されてしまった。初めは65点ぐらいだったが(これも低いことに変わりない)、徐々に荒ぶっていったせいで後半はほぼ50点台ばかりだった。ここまでいくと一端の非国民である。

努力すればするほど音痴を極めつつあった僕は、助けを求めるように振り返ったが、連れたちは奇妙なモノを見るかのような冷たい目で僕を見ていた。寧ろ、彼らはこの状況を生み出した張本人のはずなのだが、それさえも忘れるぐらいにだいぶ引いてた


Round.3

僕の機嫌はかなり悪かっただろう。何しろ、白日のあとに君が代を10回連続で歌わされ、その結果なぜか首謀者の連れがドン引きするという事態に陥っていたのだから。

その後も連れたちによるカラオケ特訓は続いたが、僕は一曲歌う度に精神をすり減らしていた。

逆に聞きたい。何が悲しくて『犬のお巡りさん』を『甘めの迷子さん』にアレンジしなければならないのだろう?誰が嬉しくて『ドレミの歌』を『ミファソの歌』に改変しなければならないのだろう?一同諸とも童謡の神様に雷を落とされる必要がある。


そんな中で怒りの表情をなかなか見せなかった僕は、かなり大きい器を持っているに違いない。最も、その器の大きさが間違った方法で生かされていることは言うまでもない。

だが連れ二人は恐ろしく器が小さかった。何しろ、「俺様が特別にご教授しているのに、コイツは何で成長の欠片も見せないのだ」と思っているのだ。まさか怒らないわけがない。


ついに彼らは、僕に面と向かって罵倒し始めた。確かこんな内容の言葉を言っていた気がする。

「お前にリズム感の概念は無いのか?」

「歌が上手そうな顔しているのに」

「エンターテイメントに見放された可哀想なやつめ」

「おい炭酸水飲むか?炭酸水?」

「お前の喉、マジでアスファルト」←?

「お前は彼女とカラオケに行かない方がいいな」

「いや、寧ろ行ってフラれてしまえ」

「あ、そもそもおらんのやな笑笑」

「何なら学内でコンサート開いたらええやん笑」

「もはや大スターじゃなくて大スベッターやな笑笑」

笑顔がだんだん引きつってくる。よくもまあ好き勝手言えるものだ。机の下でそっと拳を握りしめて僕はひたすら堪えた。僕のぎこちない笑顔に気づかないのか、彼らは大爆笑していた。

まあ良い。僕の方が彼らよりも遥かに大人で器が大きい人間であることが証明できた。もう少しの辛抱で、僕は新たな進化を遂げることが出来る。そう思って深呼吸をしたときだった。

「もう10曲行っとく?」


連れがいつぞやと同じように、一気に曲をシュバババと入れる。僕はその曲が全て『君が代』であることを確認すると、かの邪智暴虐な連れを日本のために除かなければならないと決意した。そのために僕は、器の大きさ並びに全プライドを捨てた。


キエエエエエエエエエーー!!!


通常の使い方でカラオケを嗜んでいたならば出てくるはずが無い言葉が、あろうことか僕の口から発せられた。そしてそのまま近くにいた連れの一人に、思いっきり制裁を加えようと飛びかかる。

僕を批判する人もいるだろう。「大人は『君が代』を10曲連続歌わされるぐらいで怒らない」と。勿論、僕は自分が大人でないことを痛感させられた出来事である。

だが、


『仏の顔も三度まで』という言葉がある。仏の顔に三度も触れる不届き者などそう多くはいないだろうが、僕は顔を五度ぐらいぶん殴られたような心地がしたのだからそこまで不都合は無いはずだ。


その後デンジャラスに暴れ続けた僕たちは、電話越しにカラオケスタッフから怒りの言葉が発せられるまで乱闘騒ぎを続けていた。不思議なもので、騒ぎが一旦収まると僕らの間で奇妙奇天烈な絆が結ばれていたのである。僕らは互いに握手し、お互いの健闘を称えあったのであった。


ただ、

「なあ、来週の月曜もカラオケで特訓するか」という言葉には流石に頷けず、肩に置かれた手をやんわり外すことになった。



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