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【デンジャラスばばあについて】時の流れの断絶を思ふ

僕は、小学校の頃から大学生のいまに至るまで、同じ散髪屋で髪を切っている。

別に特段、この店が気に入っているわけでもない。かと言えば、家から近いわけでもない(寧ろ遠い)。しかも、僕の思う通りに髪をカットしてくれたことは一度もない(まあこれは僕の癖毛が悪いのだが)。

じゃあ何でこの散髪屋に通い続けているのか?一般の男子大学生であれば美容院でカットしてもらうだろう。そんな中、僕の頭の上で伝説の失敗作を生みつづける散髪屋に通う理由は何なのか?

僕がドMだから?
─否定しがたいが違う。

僕が陰キャだから?
─これに関してもわかりみが深いが違う。

変な髪型で目立ちたいから?
─残念ながら、流石の僕でもそんな特殊な性癖は持ち合わせていない。


答え合わせをしよう。

めちゃめちゃ安いからである。

普通の美容院で切ると、安くても2~3000円はかかる。が、この散髪屋は一回1000円近くしかかからない。苦学生、若しくはドケチな僕にはうってつけの散髪屋なのである。


さらにさらに、愛すべき散髪屋はこれだけでは終わらない。

カットスピードがめちゃめちゃ速いのだ。

この散髪屋は本当に髪を切る速度がえげつなく速い。いや、もはや髪を切っていない。抜いているという表現の方が相応しいだろう。「妖怪髪抜きばばあ」の如く、抜くのが速いのだ。僕はその速さに感嘆すらしている(←それはそれで問題だが)。


そして、忘れてはいけない重要人物がいる。

散髪屋のばあちゃんだ。

散髪屋のばあちゃん。僕のなかで密かにラスボスに認定している。なんなら見た目が上沼恵美子なのだ。威圧感がマジで半端ないっす。

そのばあちゃんに切ってもらうことが多い。そう、僕の頭の上で、豊かな感性を感じさせる見事な作品を作るのがこの方なのだ。

そしてここからが本題なのだが、このばあちゃんは毎回僕の年齢を間違える。もう10年の常連なのに、未だに僕の正確な年齢を言い当てることが出来ないのである。

中学生の頃は、「小学生」と呼ばれ、

高校生の頃は、「中学生」と呼ばれ、

大学生(今)は、「高校生」と呼ぶ。


明らかに僕とばばあの間で流れている時間が、断層の如くずれているのだ。


しかも、この散髪屋はちょっと変わっていて、「小学生」、「中学生」、「高校生」、「大人」ごとに料金が変わるシステムが導入されている。なので、僕は毎回年齢を間違われることで得している。まあ年齢を直して正規の料金を支払うのだが。


今日もちょうど散髪してきた。例に漏れずあの愛すべきばあちゃんがカットしてくれることになる。

ばばあ:「おお、久々やね」

 僕 :「今日もよろしくお願いします」

ばばあ:「いつも通りで良いんやろ?」

 僕 :「(いつも通りは不味いんですが…)…お願いします」

─しばし、ばあちゃんの作品作りが行われる─


ばばあ:「そういや高校生やんな?」

 僕 :「いや、大学生ですけど…」

ばばあ:「ああ、そうなんや」

─しばし、ばあちゃんは惑う─


ばばあ:「いや、自分やっぱ高校生やな!
     背伸びしたい気持ちも分かるけど笑」

 僕 :「大学生です」

ばばあ:「いやそんなことはない(←そんなことしかない)」

 僕 :「…」

ばばあ:「こんな癖毛の子、大学生におらんやろ?」

─そう言って彼女は芸術作品となった僕の髪を見せたのであった……


時が流れるのは速い。

同じように、髪抜きも速い。

そしてその速さが断絶するように、しっかり僕とばあちゃんの間に違う時間が流れているのであった。



「ありがとうございましたー!」

「切った」というよりも「薄くなった」頭で散髪屋を出る。

何だかんだ言って、僕はこの散髪屋が好きかもしれない。
もちろん、超激烈なばあちゃんもだ。

風が突き抜ける。

梅雨の切れ目に晴れ間がさした。



髪の毛を短くしたら、夏が今年も始まる。





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