
デザインをすることは、「誰かの好きを作る」こと。SWAYアートディレクターの頭のなか
はじめまして。ライターのいしかわゆきです。『SWAY Magazine』のインタビュー第3弾を担当することになりました。
今回ご登場いただくのはアートディレクターのshihoさん。ロゴやショップカード、メニュー、Webサイトなど、SWAYのクリエイティブ全般を手掛けています。
営業での経験を経てデザイナーを志したというshihoさんは、どのようにデザインに対して真摯に向き合っているのか。ご自身のお話から、SWAYに関わることになったきっかけ、デザインをするうえで大切にされていることなどをお聞きしました。
shiho / SWAYアートディレクター
1993年生まれ、大阪府出身のデザイナー兼イラストレーター。大学卒業後は、某IT企業でマーケターとして勤めるかたわら、デザイナーとして個人でロゴデザインやイラストなどを手がける。2021年夏に独立し、現在は東京と大阪を拠点にマーケ視点も活かしたデザイナーとして活動中。海外旅行、都会と美しい自然、美味しいものとインテリアが好き。 好きな映画はマイインターン。
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いしかわゆき / ライター
Webメディア・新R25編集部を経て2019年に独立。取材やコラムを中心に執筆するかたわら、声優やグラフィックレコーダーとしても活動している。著書に『書く習慣~自分と人生が変わるいちばん大切な文章力~』。生きづらい世界をいい感じに泳ぐために日々発信中。
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「モノを売ること」が是とされる世界で、ふたたびデザインと出会った
-- まず、shihoさんがSWAYと関わることになったきっかけを教えてください。
shiho:1年前に友だちから誘われて、シーシャ好きの人たちが集まる「シーシャ会」に行ったんです。そこで意気投合した藤巻さん(SWAY代表)が、わたしが作っているものに対して「すごくいいね。いつか一緒に何かをやりたい」と言ってくれたことがはじまりですね。
その後、何度か会ってやり取りをするなかで、彼のやりたいことの話を聞いたときに、素敵だなと思って。しばらく経ってからSWAYのロゴの依頼をいただいたんです。仕事というよりは、たまたま気が合って、何度か会っていたら仕事のパートナーになっていった、という流れですね。
-- 本当に偶然の出会いだったんですね。shihoさんは、昔からデザインをやられていたんですか?
shiho:本格的にやりはじめたのはここ数年のことです。もともと絵を描くことが好きで、幼いころから自由帳を手放さないような子どもだったので、漠然と美大に行きたいという思いは抱いていました。
でも、将来食べていけるかがわからなかったことや、親からの反対を受けたことで、美大を諦めて普通の大学へと進むことになりました。
実はこう見えて、すごく安定志向なところがあるんです。
学生時代は英文科に在籍し、「どうやったらデザインの道に行けるのだろう」と考えながらも、最終的には将来性のありそうなIT企業に就職しました。きっとここなら困ることはないだろうなと(笑)。
-- それ、すごくわかります。やりたいことはあるけど、つい保身に走ってしまうという。
shiho:そうそう。でも、ずっと胸のなかではモヤモヤとしていましたね。そこから抜け出すきっかけとなったのが、IT企業での営業のお仕事です。
営業をやっていたとき、無理矢理モノを売らなくてはいけないのが本当に辛かったんです。ギスギスしている裏側を見たときに、「もっと優しい世界がいいなぁ」と思いました。
学生時代から海外が好きで、よく旅行に出かけていたのですが、行きたい場所に出かけたり、好きなものに触れたりすると「ときめく瞬間」があるじゃないですか。それが日常生活のなかにあれば、そういう心のイガイガも取れるんじゃないかと思って。
心を落ち着かせたり、気づきを与えられるようなものを生み出したい。「人」をときめかせたい。そんな思いが日に日に強くなっていき、まずは営業からマーケティングへと異動することにしました。
-- 意外です。マーケティングですか?
shiho:わたしは独学でデザイナーになろうとしていたので、デザインだけだと勝てないと思ったんですよ。でも、そこにマーケ視点があれば強みになると思ったので、あえてマーケティングを勉強することにしました。
その後は本業と並行して、少しずつ副業でデザインの依頼をいただくようになり、本腰を入れるために2021年8月に会社を退職して今に至ります。
-- デザインは独学で学んだんですね。
shiho:スクールに通ってみたこともあるんですが、性に合わなくて…(笑)。それよりは、実際に制作物を作る過程で調べながら学ぶのが好きです。毎日が学びだと感じています。
特に、旅先で心が動くような美しさに出会うことが、インスピレーションの源泉になっています。それぞれの文化によってアウトプットが国ごとや町ごとに全然違うから。
これまでの自分の常識のなかにないようなものに触れたときに、ときめきを感じるんですよね。
わたしは「神様が作ったもの」と「人が作ったもの」が好きで。「神様が作ったもの」は、自然や風景。「人が作るもの」は建築やアート。ドバイで見たアラビア様式の幾何学模様とか、建築様式とか、日本にはないようなものにインスピレーションを受けて、その要素を取り入れるのが好きですね。
相手のワードを可視化して、デザインへと落とし込む
-- shihoさんがデザインをするうえで1番大切にしていることは何ですか?
shiho:言葉にすること。ヒアリングにはかなり時間をかけていると思います。相手のワードを可視化することが一番楽しいですね。
人の想いやメッセージを整えるのがすごく好きなんです。事業を立ち上げる人って「誰かのために」とか「世界のために」とか純粋な想いを持っていて、そんな人たちを応援したいという想いがあります。人の純粋な想いを汲み取って言葉にするところに時間をかけています。
デザインは、主に「色と形」から成りますが、ビジュアルだけで伝えられることもあれば、それだけではわかりあえないこともある。そのときに橋渡しになるのが「言葉」だと思うんです。
わたしも大学時代は全然言葉なんて意識していなかったけれど、社会人になっていろんな人と会話するなかで、「この人の言葉の使い方、素敵だな」と思う瞬間がいくつもあったことで、どんどん言葉を意識するようになりました。
-- 「相手が言語化したいことを汲み取る」ってすごく難しいことのように感じます。
shiho:わたしの場合は、とにかくまずはその人の話を聞いて、そのなかで相手が言わんとしていることを、「たとえ話」でたとえるようにしています。「たとえば、このブランドの○○のようなイメージですか?」とか。それで相手の反応を見て認識に相違がないかを確認するようにしています。
相手の言葉を聞いてピンと来たらたとえ話で表現してみて、一緒に答え合わせしていくイメージですね。SWAYではほとんどのミーティングに参加して認識を合わせました。ずっと残るものだからこそ、とことん時間をかけたいと思っていましたね。
「誰かの好きを作る」ために必要なこと
-- お話を聞いていると、shihoさんが本当に丁寧に相手と向き合っているのが伝わってきます。
shiho:わたしはブランディングが好きなんですよ。
営業時代、営業なのでやむをえないのですが、切り返しトークなどで無理矢理誰かに売りつけることがあまり好きではないことに気付きました。でも、ブランドそのものの「らしさ」を磨いて、好きになってもらえば人を通じて自動的に広まっていくはず。その「誰かの好きを作る」のがブランディングだと考えています。
数字だけを追いかけても、結局は自分がプロダクトを好きになれないと利己的になってしまいます。でも、誰かの好きを作ればブランドが世に広がり、人の心も豊かになると信じています。
-- どうやって「好き」を作るんですか?
shiho:ちょっと感覚的な話になってしまうんですけど、わたしはすごく人が好きで。
その人が好きな場所、ブランド、雑誌とか、「あなたはこれが好きそう」を予想して、それを当てるのが楽しいです。そのブランドが好きそうな人に、見つけたブランドのリンクを送ることもあります(笑)。
-- えっ、どうしてそんなことがわかるんですか?
shiho:東京は駅ごとの人観察が楽しくて、「この街には、こんな人がいる」を観察しているうちに、「この人はどの駅にいそうで、雑誌なら●●を読んでいそう」というのがなんとなく掴めるようになってきました。
-- SWAYのターゲットはどのように決めたのですか?
shiho:私が初めてシーシャに連れて行ってもらったとき、店内の暗さと人の多さ、賑やかさが相まって少し入りにくい雰囲気を感じました。もちろん居心地の良さや、落ち着くポイントは人それぞれですが、ホテルのラウンジのような対話のできる空間でシーシャを楽しむことができたらと新しい選択肢になり得ると考えました。
代表の藤巻さんからは、「都会の喧騒から離れて、初心者の人でも気軽にシーシャの良さを知れるような場所を作りたい」というのをあらかじめ聞いており、ブランドマネージャーの梯さんとも話し合いを進めるなかで、あえてオーソドックスなシーシャバーに来なさそうな人をターゲットにしてみよう、ということになりました。
そこで、メインターゲットは「休日を代官山で過ごしていそうな仕事好きのお洒落な男性」に設定。ここから逆算して、空間に合うデザインのトーンを決めていきました。
-- ちょっとマーケティング思考が入ってるんですね。
shiho:はい、そうかもしれないです(笑)。
「休日は代官山で過ごしていそうな仕事好きのお洒落な男性」を想像したとき、余白が多い雰囲気が好きそうだと感じたんですよね。Webサイトもデザインさせていただきましたが、ターゲットが好みそうなサイトも意識しながら、写真のトーンや構成を検討し、イメージを固めていきました。
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センスを発揮することだけがデザインじゃない。その真髄は「話を聞いて、言葉にしていくこと」。丁寧に言葉を選んで紡いでいく様子から、営業やマーケターとして悩み、遠回りをしながらも、すべての経験が活きて今のshihoさんに繋がっているのだと感じられるインタビューでした。
後編では、実際にshihoさんがどのようにSWAYのコンセプトをロゴやクリエイティブに落とし込んでいったのか、詳しくお話を伺います。
「SWAY」
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