鼻笛は突然に。
大きな部屋の片隅の小さな箱の中で声の仕事をしている。
アナウンサーでは、ない。
最近、始めたばかりのひよっこなので自分の読みの塩梅がどんなもんか、放送を録画して聞いてみる。という自虐プレイのようなことをしている。成長するための涙ぐましい努力!!(ということにしておこう。)
まずはその日の中で、自分で一番納得できた箇所を聞く。とはいえ、間違えないで読めた、とか、時間ぴったりに読めた、とかいう幼稚園レベルの満足。そして、「あぁ、あれでもこんなもんか。」という予防接種をする。
それから、恐ろしさのあまりもう忘れたいような部位を聞くのだ。そもそも本番の時点で失態を犯しているのだから結果は目に見えてるはずなのだが、何かの間違いでON AIRは上手く行っちゃってたりしちゃったりしないかなぁ?といううすら温かい希望を胸に抱きながら聞いてみるのだ。
そして、玉砕する。
「やっぱり、ダメか...⤵⤵⤵」それをバネに「次がんばろう!!」という明るくポジティブな性格ではない。「やっぱりダメか。。。わ、、忘れよう。。」と、心に決め、忘れることにしたことを忘れられない、執念深い、いや、粘着質な、いや、繊細で傷つきやすい性格なのだ。「でももうON AIRされたものは仕方ないよ、次!次!って、先輩言うじゃん。そう思おうよ、ね!自分!」。。。って思える人っていいよなぁ凹(涙)。。。エンリピである。
しかしある日、奇跡が起きた!コロナの影響で、今まで分担していた声の仕事を1人で一手に担うことになったのだ。やることが倍になった!心配も不安も倍!しかし時間の無さは倍以上!!
「やるしかない!」
ちょっとした高揚感を胸に仕事に臨んだ。イントネーションちょっと変かな?テンポ、大丈夫かな?前ならグダグダ反省し深堀し傷だらけになるところだが、何せ時間がない。次から次へとくる原稿。読み方の確認をしたらすぐ本番!終わると次の原稿が来ていて、また確認して本番。エンリピーエンリピー!
「あれー?忙しいと、細かいことにイチイチ落ち込んでる暇なくていいかも?」(その後に反省復習します。そしてやっぱり凹む。)
と、さらなる高揚感と、1人でやりきった充実感を胸に、夜、放送を確認する。
お、ちゃんと言えてる。少しペース早いかな?ここはもう少しハッキリ言ってみよう。ふんふん、このくらいなら大丈夫かな。よし、よく言えた。やっと今日は凹んだ考えごとをせず気持ちよく眠れそうだ!ルンルン♪
と、途中まできた、その時である。
「ピヒィィ〜〜。。。ピヒィィ〜〜。。」
ん?
何この音?
風の向こうからかすかに聞こえるチャルメラの笛の音。違う。チャルメラは「タリラーリラ タリラリラリーー♪」である。もう一度、聞く。
「ピヒィィ〜。。フんガー。。ピヒィィ〜。。」
私の。
興奮した鼻息だった。
・・・・・。
読み以前に、鼻息て...。そういえばマイクの前に座ると緊張してどこで息を吸えばいいのかわからず、息を止めちゃってたのだ。その分、呼吸が大きくなったのか、興奮してマイクに近づきすぎたのか。
めちゃくちゃがんばってたんだな、自分。
変質者のように荒い呼吸で鼻を鳴らしながら一人懸命に奮闘していた数時間前の自分が急に愛しくなった。
鼻笛は突然に。
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