見出し画像

映画『風と共に去りぬ』を批評する

私は映画が好きだ。と言ってもたくさん観るタイプではない。気になる作品を観て、気に入れば何度も観て深く考えるのが好きだ。
私は小説家を目指しているのだが、その物語は映画から学んでいる。
大学は哲学科を二十年前に出ているが、その学科には美学芸術学コースというのがあって、私は哲学コースに進んだものの、教養課程で「西洋美術史」を受講した。その授業で映画『薔薇の名前』というのを観た。原作はイタリア人哲学者ウンベルト・エーコである。原作を読んでないからそれを批評することはできないが、映画については批評ができる。まあ、内容はある修道院で連続殺人があったというミステリーなのだが、ミステリーが好きではない私は面白いとは思えなかった。その映画は時代考証などがしっかりしていて西洋美術史を学ぶ上で参考になると講師は言っていたが、その講師は当時世間にセンセーションを与えていた『タイタニック』について「あれが芸術かどうかはわからないけれども」と言っていた。私はタイタニックを観に行き、「これはアメリカ映画史上最高傑作ではないか」と思った。それに比べたら映画『薔薇の名前』などたいした作品ではない。美術史家などが高評価を与えていたとしても、私の映画観ではたいした作品ではない。『タイタニック』は当時98年日本の興行収入の記録保持者であった前年の97年に公開された『もののけ姫』を上回った。宮崎駿のファンである私としても、それは仕方ないことだと思った。ジェームズ・キャメロンは私の中でも大事な映画監督のひとりとなった。そして、私がファンである以上に師匠と仰いでいる宮崎駿は、01年に公開した『千と千尋の神隠し』で『タイタニック』の興行収入を超えた。私が浪人から大学生の頃の数年、映画界は充実していた。で、次に記録を塗り替えたのは、ジェームズ・キャメロンの『アバター』である。これはあの『タイタニック』の監督の作品と言うことで期待値が高く、世界的に売れた。しかし、多くの人が期待外れだったと落胆したに違いない。私は『アバター』は技術に溺れた駄作だと思っている。しかし、それ以降、世界の興行収入を塗り替える作品は出ていないようだ。日本では新海誠監督が『君の名は』で躍進し確固たる地位を確立しつつある。『鬼滅の刃~無限列車編~』が『千と千尋の神隠し』の日本記録を塗り替えたが、あれはコロナ禍の趣味のない時代に社会現象として流行しただけに過ぎないのであって、『千と千尋の神隠し』より優れた映画であるとは思われない。今年公開した『君たちはどう生きるか』はもっと徹底的に宣伝すれば相当儲かったと思うが、それはジブリの鈴木敏夫の怠慢である。宮崎駿はただ作る人であり、それを売る人は鈴木敏夫である。NHKの『プロフェッショナル』という番組で、『君たちはどう生きるか』のドキュメンタリーなどやったらしいが、時期が遅すぎる。それにいろいろなネットでの声を聞くと、ドキュメンタリーとして勝手に筋立てをされ、『君たちはどう生きるか』の見方を偏ったものにしているようだ。映画とは誰かの解釈を参考に観るものではない。直接自分で観て内容を受け止め、感動したり考えたりするものだ。
私は売れた映画、名作と呼ばれ世の中に残っている映画は基本的に良い映画が多いと思っている。時代を超えても高評価され度々話題に上る映画はビデオで観てみるとやはり良い。
小津安二郎の『東京物語』は傑作であると思うし、溝口健二の『雨月物語』も秀逸だ。そういう古くて良い映画を観て比較できる哲学を持って、現在上映している作品を観れば、どの作品が後世に残り、どの作品が消えていくのか、その勘は養われると思う。
その点から、アメリカ映画の名作と呼ばれるもので外せないのは、『風と共に去りぬ』だ。この作品はマーガレット・ミッチェルの同名の小説を映画化したものだ。しかし、小説が長いものであるため、映画はかなり駆け足になっている感が否めない。中間に現在の映画ではあり得ない「休憩」の時間がある。当時の観客はこの休憩時間に席を立ちトイレに行ったのだろう。もしかしたら、女子トイレで行列ができていたかもしれない。
『風と共に去りぬ』はアメリカ人に人気がある。南北戦争の中、強く生きる女性を描いた物語だ。小説では主人公のスカーレットはカネのために、というか生きるために金持ちの男と結婚する。私はこれを読んでいてまったく共感できなかった。レットバトラーもいい男であるとは思えなかった。その恋や幸福にはそれを支える「カネ」の力が感じられた。それでも映画が良い物に思えるのは映像美や音楽である気がする。物語は駆け足で進むものの、印象的なシーンは多くある。その中で有名なのは馬車で、焼け落ちる家の前を通り抜けるシーンだと思うが、これは制作上の話題であり、映画のシーンとしては華やかであるけれどもたいしたことはない。それよりもスカーレットがお産の現場で活躍する場面が私には印象に残っている。戦争で多くの人が死に、駅には死体がたくさん転がっていた。そこをスカーレットは出産で苦しむ女性のために医者を探すのだが、医者は怪我人の治療に忙しく「出産など自然に任せても大丈夫だ。医者などいらない」などと言われて自分が出産を世話をすることになる。ラストシーンはスカーレットの力強い言葉で締めくくられ、有名なテーマ曲が流れて終わる。やはり私はあの音楽がなければ、この映画は成立しなかったと思う。とはいえ、あの映画を観てから、二十八年くらい経っている私にこれだけ語らせてくれる映画だから、印象に残っているだけ、いい作品だったと言える。ただ、物語作家として尊敬すべき作品とは言えない。原作の小説も私は小説を書く上で参考にはしたくない。
映画が生まれて百年くらいしか経っていないのに、世の中には多くの名作がある。この文章をここまで読んでくれた人で、古い映画に興味がない人は少ないと思うが、もし、映画とは新しく公開されたものしか観ないものだと思い込んでいる人は、サブスクやレンタルなどで古い名作を観ることをお勧めする。そう言う私も、冒頭で述べたようにたくさん観たわけではない。しかし、逆を言えば、まだ観ていない名作がたくさんあるので、その分楽しみが多いと捉えれば幸せなことである。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?