日本の半導体教育に関する考察
はじめに
今回は自分が最近感じている半導体教育に関してまとめたいと思います。アカデミアの世界から離れて数十年たっており、状況が大きく変わっているかもしれませんが、日米で採用面接をしていて面接時の質問に関する回答を聞いていても、状況は当時と変わっていないかなぁという印象を受けます。
まぁ中年のおじさんが勝手に嘆いていると思って読んでいただければ幸いです。自分はあまり他人に対する教育とかには興味がないので、お前がなんとかしろという意見があるかと思いますが、今のところそのつもりはあまり無いです。
半導体関連で必要な知識を大雑把に分類
自分の経験より、半導体に必要な知識階層に関してまとめてみました。もちろんこの他にも知識が必要になるかと思います。そちらにまで行ってしまうとある特定の部分に特化することになるので、それはそれで別次元の話になりますので今回は割愛いたします。
今回は自分の独断と偏見で勝手に色分けしています。それぞれに関して少し自分なりの解釈を書いとおこうと思います。
強い部分(青色)
基礎となるところです。固体物理や量子力学を理解するための基礎的な物理や数学の知識があり、それを基に半導体物理を理解するというところです。この部分は大学の学部や博士課程前期で講義になっていたりしますね。
この部分はしっかりと理解している傾向があります。まぁ理解していないと卒業できないのでしっかりやっているというのが正しいかもしれませんね。
日米で比較すると、おまり大差はないような感じがします。数式や公式を細かく覚えているのは日本の方です。USの方は細かい数式や公式を覚えているというよりも、それらがどの様に導かれて、どの様な時に使うかをよく知っている感じです。
失われている部分(黄色)
ここは日米ともに失われている印象です。自分が知っている限りでもこの部分を重点的に研究している大学は5本の指に入るぐらいです。一方で台湾、韓国や中国はこの部分が強い印象があります。ヨーロッパはこの分野はIMECという巨大な組織があり、そこで重点的に研究している印象です。
最近のIEDM/VLSI Sympo等でこの分野において日本の大学から発表されたものはほぼないと思います。
日本の場合は、この部分は企業に就職してから社内教育として実施されるというのが多いかと思います。ただ先端デバイスを生産している企業は日本では皆無ですしFinFETに関して熟知している企業があるかもわからないです。
Optical/MEMSに関してはまだ日本国内に世界市場をLeadしている企業が残っているので学ぶチャンスはあると思います。
個人的な懸念は、企業の社内研究任せは危険だということです。企業はあくまで営利を目的としています。なので何故そうなるかを追求するよりもどうやったら回避や修正できるかを重点的になります。なので本質的理解の基にどの様にデバイス自体を作り直せば良いかや、どの様にデバイスを設計すれば良いは後回しになる傾向があります。
大学・企業ともに研究が盛ん(オレンジ)
大学・企業ともにAcademicなことが多くされており、それが新規製品に上手く反映されていると思う部分です。日本からもそれなりの数の論文が出されておりISSCCやVLSI Sympoで毎年発表があります。
少しこれとは別系統ですが高位合成分野は日本では若干弱いまたは十分ではないというイメージです。アルゴリズムからどの様に効率的な回路を合成するかというところですね。FPGAでは中途半端です。最終製品としてはやはりASICにする必要があるので、そこまでのBridgeはほぼ日本ではみたことがないです。
教育が失われており企業でも十分ではない部分(緑)
実際に設計をし、回路検証等を済ませTape-out作業し、完成品を評価するという一連の作業ですね。特に今現在求められている<5nm以下のNodeは日本ではほぼできないのでは?企業側もシャトルで流すのが精一杯な感じです。量産となるさらなる検証が必要になるので、その部分のノウハウ的な部分はほぼないような印象です。
単にDRC/LVS通すだけであれば、Try&errorで完成することができますが、DFMやFin構造ならではの歩留まりや特性を出すためのノウハウは数をこなさないとわからない部分もあります。
今後に期待
日本にも14nmや2nmの半導体工場ができます。是非ともこの良い機会を使い日本の半導体教育で不足している部分を補えるように何か枠組みがあると良いかもですね。