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知性を旅に喩えよう。夜おもいだす昼の光。金色の髪の少女。

知性ってどういうもの? 興味深い、ただし自分はそれに対してなにも知らない対象に出会うとわくわくすること。文学界の読まれない3巨匠。なぜ、読んでない者同士は話が合うの? そしてシド・バレットが愛したジェイムス・ジョイスの詩について。


知性からほど遠い人びとは年中ChatGPTに頼って瞬時に知識を得てそれをそのまま口にして、結果、知ったかぶりがすぐばれる。そもそもChatGPTこそが「わたしはすべてを知っている」と主張する、神をも恐れぬ驚異の知ったかぶりですからね。知ったかぶりのお知恵を拝借すれば、知ったかぶりが伝染するだけのこと。ChatGPTは有能なガイドとはいえ、しかし、わたしたち自身が旅をしなければ、なにもはじまりません。そして旅とはなにが起こるかあらかじめわかるものではありません。



知性を持つ人にとっては、なんにも知らないけど興味深い対象に遭遇すると、ウキウキするもの。わ。おれ、なんにも知らねー、つまりこれから先のお楽しみ満載じゃん! なお、ここには経験を大事にする態度があります。



読書とて経験ではあって。本のページをめくって文字を読んで読んで読み進み、脳があれこれ反応して、それを愉しむもの。なお、文学の世界にはほぼ読まれない3巨匠がいて、ジェイムス・ジョイス、マルセル・プルースト、ウィリアム・バロウズです。興味深いことに読んでない人同士はかんたんに話が合う。なお、ぼくはこれを「ニュートン、まぬけの法則」と呼んでいます。ニュートンって林檎が落ちるの見て万有引力を発見した人でしょ、ってやつですよ。同様に。ジョイスってアイルランド人で英語に恨み骨髄で、英語をうんこまみれにすることに情熱を捧げた人でしょ。プルーストって紅茶にマドレーヌつけちゃって食べて老人みたい、そんでもってむかしのことをぐずぐずおもいだすんでしょ。バロウズって、始末におえないヤク中で、奥さんの頭に林檎乗せて、ウイリアム・テルごっこして奥さん殺しちゃった人でしょ。ああ見えて晩年は猫を猫ッかわいがりしてたよね。ざっとそんな会話が交わされて、話題は別のトピックに移るもの。だって、それ以上おたがい知ってることはなにもないのだから、会話の続けようがありません。(あ、3巨匠のひとりのバロウズはトマス・ピンチョンと入れ替えても良かったかな。もっともピンチョンは買ってはみたものの読まない人が大半ながら、しかしなかには読み込んでいるマニアもけっこういますからね。)



他方、世の中は恐ろしいもので、なかには3巨匠の誰かをちゃんと読んで、しかも再読三読して、なかには原書まで取り寄せて、全作品を読んでいる人もいるもの。そういう人がしゃべりはじめると話の水準はがらりと変わる。知ることって、ほんとはこの水準のことを言うのだけれど。良い本というものは、よし、この本におれの一カ月を捧げようっておもえるもの。2時間ていどで気がすんでしまう本なんてそもそも読む必要がない。



余談ながら、最近ぼくはシド・バレット研究のなかで、ジェイムス・ジョイスが可憐でナイーヴな抒情詩をも書いていたことを知って驚いた。(Golden Hair)シドはそれに曲をつけて、ギターを弾いて歌っていた。


Lean out your window,golden hair
I heard your singing in the midnight air
My book is closed,I reed no more
Watching the fire dance,on the floor
I've left my book, I've left my room
For I heard your singing through the groom
Singing and singing,a merry air
Lean out the window,golden hair




この曲は夜聴くに限る。
夜おもいだす昼の光。
金色の髪の少女。



そう言えばシドは無口な人だった。良いミュージシャンの8割は無口なもの。そこにはなにかの秘密がありそうだ。





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