セーラームーンの髪型をして出かけたら、知らないカップルに笑われた
私はアニメのキャラクターに憧れる癖がある。
黒髪ロングヘアに姫カットのキャラクターに憧れて姫カットにしたり、かと思えば、頑張って伸ばした髪をばっさり切ってショートカットのキャラクターの真似をしたり。見た目を似せることでそのキャラクターになりきれる気がして、生き方や性格まで変えられる気がして。
憧れてきたキャラクターは何人もいるけれど、その中でも私の憧れ心が強く惹かれるのは、美少女戦士セーラームーンシリーズ。私は生まれた世代的にはプリキュアの世代で、セーラームーンは大人になってから視聴したのだけれど、そこには大人が見たって憧れるような女の子像が詰まっていたのだった。
仕事を辞めたことにより有給消化をする日々で、ここ数日も家でセーラームーンばかり見ていた。
そんな数日前のこと。
大学時代の女友達と1年ぶりに会う約束が決まった。その子に「遊ぼう!」と声をかけてもらえたことがとても嬉しかったし、私の大好きな季節である春が来て、ピンク色の春服を着られることが楽しみだった。
そんなわくわくしている前日に、「そうだ!明日はセーラームーンの髪型にしーよう!」と思い付いた。両サイドにお団子を作り、一部を残してツインテールにして垂らす、セーラームーンのあの特徴的な髪型。以前一度やったことがあるので、やり方は分かっていた。
当日の朝、ピンクのアイシャドウを使ってかわいいメイクをして、セーラームーンの髪型をセットした。なかなか綺麗にできて、良い感じだと思った。玄関の全身鏡で最終チェックし、友達に会えることにわくわくしながら駅に向かった。
友達とカフェに入り、ランチを食べることにした私たち。1年振りの再開に盛り上がり、あれこれ話が止まらない。そんな会話の中、ぽろっと「今日、セーラームーンの髪型にしたんだ〜」と私が言った。
すると、右隣の席に座っていたカップルの女性の方が、あからさまに覗き込んでくるような姿勢をとった。目が合っても気まずいので私は気付かないふりをしたけれど、明らかに不自然な視線を感じた。さらにカップルの男性の方が、「見ちゃいかんって!」と女性に注意しつつ、自分も微かに笑っているのが聞こえた。
笑われている。私が。
そう気付いたけれど、怖くてそちら側を見れなかった。数分後にそのカップルは席を去った。だけど視界の端に映ったその女性のニヤニヤしながら覗き込むような姿勢が、頭の中にこびり付いて離れなかった。友達と話している間も、「何だったんだろう…」とぐるぐる考えた。
たぶん。これはたぶんの話だけれど。
あの女は、私がセーラームーンの髪型をしていることを笑ったのだ。たいして美人でもない私が、子供向けアニメのキャラクターの真似をして外出していることを笑ったのだ。もっとはっきり言うならば、"ブスがかわいいキャラクターの格好を真似している"と馬鹿にしたのだ。そして男の方も、それを窘めるフリをしながら私を笑った。
悔しかったし悲しかった。せっかく好きなキャラクターと同じ格好をして気分を上げて、楽しく友達と会っていたのに。なんで知らない人から覗き込まれて笑われなければならないのか。
友達は「かわいいね」と褒めてくれたし、私も自分で「よし!かわいくできた!」と思っていた。私と私の友達との中で「かわいい!」と完結していたのに、外野から覗き込んできた見知らぬカップルに土足で踏み荒らされた。なんなんだ、なんなんだよ。なんで私たちの世界を邪魔者に笑われなければならないんだ。
後からすごく後悔した。目を逸らさずに、いっそのことあの女に目を合わせてやれば良かった。「変ですか?」と聞いてやれば良かった。「見知らぬ他人の髪型にいちゃもんつけて笑ってるあんたらの方が変ですよ」と言いたかった。言えば良かった。なんで言えなかったんだろう。クソ、クソ、クソが!!!
だけど私は、たった2人の知らない人間に笑われたくらいでは、女の子を辞めない。
たとえ目が小さくてもピンク色のアイシャドウを塗るし、多少派手でも濃い赤のリップを塗るし、20代半ばでもミニスカートを履くし、憧れのキャラクターに似せた髪型もする。
"垢抜け"という言葉が流行っているが、垢抜けることだけがオシャレの楽しさではない。好きな色の服や化粧品を使って、好きな自分を表現することこそオシャレだと思う。垢抜けに囚われて没個性な人間になるよりは、私は自分の"好き"を貫いている今の私が好きだ。
4月が来て暖かくなったら、もっとかわいい春服が着られる。ピンクのコスメでお人形さんのようにメイクして、少女のような水色のワンピースを着よう。そしてまたセーラームーンの髪型をする。毛先もピンクに染めて、髪飾りだって付けちゃう。誰よりもかわいい私で、そんな私のことを笑わず受け入れてくれる優しい友達に会いに行くのだ。他人の容姿に文句をつけて笑っているような奴は、私の友達にはいない。好きな私でいる私を好きでいてくれる人が好きだ。"絶対に女の子辞めない"。笑われたことで、その誓いがなおさら強く刻まれたのだった。
自分の書いた言葉を本にするのがずっと夢です。