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彼氏の話しかしない女にろくな奴はいない。

ここまで20年ちょっと生きてきて、気付いたことがある。

それは、"彼氏の話ばかりする女にろくな奴はいない"ということ。

私は数年前にその事実と初めて対面した。学生時代に仲良くしていた女友達に彼氏ができ、それ以来、その子は暇さえあれば彼の話しかしなくなったのだ。それまでは、私と合う話題で話してくれていたのに。口を開けば「彼氏が〜、彼氏が〜」と言うようになり、その子との会話が劇的につまらなくなった。もともと私は他人への興味が薄い方なのだが、友達の彼氏なんて他人も他人、私にとって全く知らない人なのだから、「彼氏が〜が好きで」とか「彼氏と〜して」とかいう話に興味が持てなかった。

ましてや、恋愛経験の無い私にとって、彼氏の話なんて共感も比較もできやしないし、もっと別の話をしたかった。それなのにその子は、何かと話題を無理矢理絡めるようにして「彼氏が〜」と口に出す。とにかく彼氏の話を私にしたくて仕方ないようだった。

つまり、かなり分かりやすい、私に対する自慢だった訳だ。

こういうことを書くと、「お前に彼氏がいないから嫉妬しているんだろう!」とか言う人が出てくるだろうが、私からその子に対するわだかまりは、嫉妬とは全くの別物だった。

なぜなら、「彼氏を見せびらかしたい!」という彼女の懇談が透け透けだったから。

学校のイベントごとや、女友達複数人で遊ぶ時に、必ず彼氏を迎えに来させて、なぜか私たちはそれを車までお見送りに行くのだった。当時はあまり違和感を感じなかったけれど、今になって冷静に考えれば、友達同士で集まっている場にわざわざ彼氏を呼び付けるなんて、ちょっと変だったと思う。だけどその頃の私たちは、誰も彼女のそのような行動を咎めなかったし、嫌な顔を見せなかった。そのせいで、きっと彼女の自己顕示欲はどんどん膨れ上がっていってしまったのだと思う。

学校を卒業してからも、その子とは数回会った。だけどその頃の私は、躁鬱の症状が1番酷い頃で、定職に就くことができず、アルバイトすらできていなかった。外に出られず、働くこともできず、家族の仲も良くないために相談できる人もいなかった私は、「今後の将来のことを思って、周囲の信頼できる友達には病気で働けないことを打ち明けよう」と心に決めた。

だけど彼女は、私の話をまともに聞いてくれなかった。そして彼女の口からは、「私のために、彼氏がこんなことまでしてくれたの」と、相変わらずの自慢話が飛び出た。その瞬間、世界がスローモーションに感じるくらい、私の心に何かが突き刺さってしまった。

仕事も無い。お金も無い。仲の良い家族でもない。一生治らないだろうと慰謝に言われた精神疾患。それまでずっと友達にも相談できなくて、甘えられる彼氏なんてものもいない。毎日沢山の薬を飲んで、なんとか人前では平気そうに振舞っている。そんなボロボロな私に対して、彼女の一言は、私を地の底に突き落とすほど強くて恐ろしい力があった。

私が長年1人で苦しんできた病気の話をやっと初めて人に打ち明けたのに。それくらい彼女のことを信頼していたのに。こんな時でも、この子は私に対する自慢を辞めないんだな。私で自己顕示欲を満たすのを辞めないんだな。そう気付いた。

気付いた途端、それまでの彼女の言動のほとんどが、私への自慢だったなと分かり始めた。それまでの私はあまりにも人を信じ過ぎるタイプだったから、「この子の話を何でも聞いて笑ってあげなきゃ」と思って、無理矢理ニコニコ相槌を打っていた。だけど今思えば、「彼氏の話しかしなくなっちゃってつまらないな」と心のどこかで思っていたはずだし、気付いていたはずだった。それを私の優しさで、目をつぶって我慢してきてしまった。その我慢の結果が、彼女のトドメの一言なのだ。

冷静に他の女友達と比較してみても、やっぱりその子の彼氏自慢は度が過ぎていた。他にも彼氏持ちの女友達はたくさんいるが、誰も女友達同士で遊んでいる場に迎えに来させたりしないし、それどころか必要以上に「彼氏が〜」と言わない。まぁもしかしたら彼氏のいない私に合わせてくれているのかもしれないけれど、そういうことをしてくれるのがその子たちの優しさだと思う。

そして、他の彼氏持ちの女友達たちは、みんな自分を持っていて、自分を満たすものをたくさん持っているんだと思う。だから必要以上に他人の話、つまり、彼氏の話を会話に持ち出さなくて良いのだろう。

きっとあの子は、彼氏以外に自分を満たせるものを持っていなかったのだと思う。自分のことを自分では満たせなくて、彼氏という他人を手に入れたことで舞い上がっていたのだろう。彼女にとって、自分を満たしてくれる唯一の存在を、それを持っていない私に対して、盛大に見せびらかしたかったのだろう。

「あぁ、私って、あの子にとって"彼氏の自慢話を気持ちよくうんうん聞いてくれて、自己顕示欲を満たせる存在"でしかなかったんだな」…深く傷付いたことでようやく目が覚め、その子とは縁を切った。

ところが最近、数年ぶりにまた、その時の事を思い出すような場面に遭遇した。

数ヶ月前に始めたアルバイト。まわりは私より歳下の学生さんばかりだ。だけどみんな優しく私に教えてくれる。その中でも、5つ歳下の女の子は、初対面の時から気さくに話しかけてくれて印象が良かった。

しかし、1つだけ違和感があった。

初対面の日から、「今日彼氏遊びに行くんですよ」と言ってきたこと。まだお互いに相手のことを探りながら関係を築いていく段階で、バイト先という働く場所で、いきなりそんな話を持ちかけてきたので、「おや?」と思った。だけどまぁ、「5つも歳下の若い女の子だし、そういう話をするのが楽しい年齢だよね」と考え、「そうなんですね」と頷いて話を聞いていた。

しかしその後も、シフトが被る度に「彼氏が〜」「彼氏と〜」と言うようになった。しかもなぜか、私と二人きりになったときばかり。気さくに話しかけてくれるのは嬉しかったが、回数を重ねる毎に、どうしても私は学生時代の"あの子"のことを思い出してしまった。

そして、その違和感は的中した。

バイトを初めて約3ヶ月。最近やたらとその子に、「鈴蘭さん、〜やって来て欲しいです」と言われるようになった。私のバイト先では、階段を上り下りすることが多いのだが、やたらと私ばかり何度も上の階に行かされる。その子は、「上の階行くのヤダ〜」とお茶目に言っては、「鈴蘭さん、行ってきてくれませんか?」と頼んでくる。歳は下だけど、入社順では彼女の方が先輩なので、つい私も「はい!はい!良いですよ!」と引き受けてしまう。

すると昨日、ついに他のバイトの人に、「もしかして今日、鈴蘭さんばかり上の階行ってくれてます?」と聞かれ、「はい」と答えると、「別に全部1人で頑張らなくても良いですからね、あの子がやらないことに慣れちゃうから」といわれてハッとした。私はこのたった3ヶ月の期間で、既にその子の思い通りに動く駒になりかけていた。そこで完全に、学生時代の"あの子"の面影と重なった。

どんな因果関係があるのはは分からないけれど、やはり彼氏の話ばかりする女にろくな奴はいない。たぶん私のこの持論は当たっている。今後もきっと、似たような女に出会いながら生きていくのだろう。私は優し過ぎるし、なんでも否定せず聞いてしまうから、きっとそのたびに都合良く自分を満たす道具として使われてしまうのだろう。

だけど、もう分かった。もう気付いた。もう経験した。だから、これからは事前に気を付けることができる。

そして、自分自身に彼氏ができた時、決して"彼氏だけが生き甲斐の女"に成り下がってはいけない。そう心に誓う。


自分の書いた言葉を本にするのがずっと夢です。