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美術部の部室でアニメの話をしていたあの頃が楽しかったな

今でこそ、アニメ好きな人が増え、"推し活"なる言葉も流行し、オタク文化が日常に溶け込んでいるものになったが、昔はそうじゃなかった。

約10年前、私は中学生だった。部活は美術部。美術部の同級生は5、6人しかいなかったが、そのうち9割がオタクだった。もちろん、私も含め。

10年前はまだ、クラスの中でオタクの肩身が狭かった。今ではボカロを知らない人はほぼいなくなったが、当時はボカロを知っているクラスメイトは、1クラスに5人ほどしかいなかった。

だからこそ、放課後に美術部の部室に集まって、「ボカロの新曲の歌ってみたが〜」とか「昨日の深夜アニメで好きなキャラが〜」とか、たわいもない話をものすごく高い熱量で話している時が楽しかった。クラスでは話せない話を、美術部の部室ではできた。クラスでは大人しくて控えめな私たちが、美術部の部室では大きな声で元気よくまくし立てるように喋っていた。

もちろん喋ってばかりではなく、夏休みや冬休みにはコンクールに出すポスターを描いたし、文化祭の時期には作品作りもした。だけどなぜだろう、あのころの思い出を思い出そうとすると、絵を描いていた時間よりも、鉛筆片手に好きなキャラクターを描きながらおしゃべりしていた時間の方が、色濃く思い出せるのだった。

10年前というと、オタクたちの厨二病の元凶である『カゲロウデイズ』がネット界の一斉を風靡したり、『進撃の巨人』や『黒子のバスケ』といった人気少年漫画がアニメ化されたりした頃だった。『マギ』とか『Free!』とか『ワールドトリガー』とか『東京喰種』とか、当時のアニメは美術部の私たちの毎日の話題になった。たぶん、これらの作品名を聞くと、私と同世代のオタクたちは懐かしさで頭を抱えるだろう。

ニコニコ動画の歌ってみたも全盛期で、今ではすっかり手の届かない大物になった歌い手さんたちが、当時はまだ"おもしろくて歌の上手いお兄さん・お姉さん"といった立ち位置だった。なんだか当時は今よりも、ネット上の有名人との心の距離感が近かったような気がする。

とにかく私たち美術部員の頭の中は、アニメのこととかボカロの新曲のこととか歌ってみたや踊ってみたのこととか、そういうことでいっぱいだった。毎日毎日それらの話題について話しているのに、それでも話が尽きないくらい。

明日への不安なんて何も無くて、毎日好きなことばかり考えて生きていられたあの頃。あの頃が1番平和で楽しかったのかもしれないなと思う。決してクラスで目立つタイプではなかったし、華やかな中学生活ではなかったけれど、戻れるのならあの頃に戻りたいと思うかもしれない。

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自分の書いた言葉を本にするのがずっと夢です。