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裁判の台本【993字】

弁護士から渡された台本。

裁判で行われる事がすべてが
プリントされた用紙の束を
私は手にした。

私は犯罪を犯し留置所にいる。
『未決拘禁者』になり
裁判まで、留置所で
過ごすことになっていた。


自分の裁判が行われるまでに
準備をしなければならなかった。
それが、演劇の台詞を
覚える事だとは想像していなかった。


留置所に面会に来た弁護士から
渡されたのはモノは
まるで演劇の台本のようだった。

ソレを見るまで、私はニュースで見る
裁判所で行われる裁判が、
演劇のように台本通りに行われていたとは
予想する事さえなかった。


複数枚印刷されたプリントは
綺麗にまとめてあった。
用紙には細かい文字が、
びっしりと書かれていた。

そこには、裁判所で行われる裁判の流れ
検察官、弁護士からの質問項目と
回答がすでに、印刷されていた。


プリントには
・裁判官が行う「人定質問」
・検察官からの「起訴状を朗読」
・裁判官による「黙秘権等の権利の説明」
・弁護士と私が行う
「被告事件に対する陳述」
・検察官からの「冒頭陳述」
・弁護人からの「証拠請求」
・身元引き受け人の「証人宣誓」
・身元引き受けに対する、弁護人と
 検察官の順序で行う「証人尋問」
・被告人である私に対する弁護人、
 検察官の順で行われる
 「被告人質問と回答」
・裁判官からの「被告人質問と回答」
・検察官による「論告」「求刑」
・弁護士による「弁論」
・私の行う「最終意見陳述」
・裁判官による「判決又は、
 判決宣告期日を指定」
までの流れが、細かく書かれていた。

この台本で、私がする事は
「被告人質問と回答」「最終意見陳述」
の台詞を覚える事だった。

裁判が行われる日までに
何度も弁護士と質疑応答の練習を行った。
弁護士との面会時間には
制限はなかった。
しかし、私選弁護士の為、
何十回も弁護士を呼び出す事や
長い時間面会をすることには
金銭的な問題もあった。
その為、最低限自分の台詞は
覚えられるように留置所内で
何度も頭の中で練習しました。


当日の東京家庭裁判所の法廷。
弁護士の書いた台本通りに
裁判という名の演劇が開演しました。

判決まで順調に進み
演劇は無事終演しました。

観客は退場して行った。
あまり反響のなかった演劇は
二度と開演する事はない。






釈放され、自宅のテレビに映る
裁判の様子を見ると、
あの時の事を思い出す。

もう二度と演じる事のない
弁護士の用意した台本の台詞を
弁護士に指導され演じた
裁判所という舞台での
陳腐なお遊戯会の事を。

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