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確実な自殺方法【3970文字】

※この記事は自殺を
推奨しているわけではありません。


鬱病と判断された。

精神科では問診票の他に
今の自分の心情に近い項目に
○をつけていく用紙を渡された。


初回から「鬱病」と判断された。
処方された薬との相性があるので
週1で通院することになった。
唯一外出するのは
病院へ通う時だけだった。

1ヶ月試した薬は
あまり効果があるとは
思えなかった。

医者には、こういう薬は
ゆっくりと効いていくものだと
言われ、仕方なくもう少し
様子をみることにした。

部屋に帰れば
布団に包まって
「死にたい死にたい」
とつぶやくだけで、
何かをしたいという欲求はなかった。
唯一「死にたい」それが
俺の全ての思いだった。


会社は辞めた。
有給消化期間で治るかと
思っていたが、そんなに
甘い状態ではなかった。


2ヶ月たっても週1で通った。
薬の種類を変える事になった。

週1での通院、薬の処方は
思ったより金額的に大きかった。
しかし、食費も少なくなり
交際費はなくなったので余裕はあった。
食事は、薬を飲むためだけに
食べ物を胃に運ぶ行為だった。
生きる事を維持するためだけに
生活している状態だった。


唯一通院を始めて変わった事は
眠れるようになった事だ。
と言っても『睡眠薬』で
無理矢理、脳の機能を
シャットダウンさせているだけだった。

でも俺には
「眠れない」恐怖から
開放されたのは良かった。
しかし、半年すると
再び「眠れない」状態に陥った。

動かないのだから、疲れる事はない。
確かに眠れる状態になるのは
難しかった。

医者には、前回よりも
ワンランク上の睡眠薬を処方された。

1年近くたった頃には
何度か薬を変更して
自分の体調に合った薬に出会えた。

少しだが
何か行動を起こす事が
できるようになった。

テレビをつける。
本を読む。
10分も集中する事はできなかったが
それでも、何かできる事が
嬉しかった。


医者に報告した。
いい傾向なので、
通院は隔週になった。
経済的な話もするようになり
自立支援医療制度を使えば
負担額が1割になる事を知り
自分で役所に行く事もできた。

できる事が少しずつだが
増えて行った。


1日中「死にたい」
と言っていた時より
布団の中で過ごす事が少なくなった。

ただ当初より
薬の種類も数も増えていった。
なるべく依存性が軽い薬を
選んでもらっていたが、
鬱状態に戻るくらいならば
このまま飲み続けても
いいのではと思うようになっていた。

行動を起こせるようになり
SNSを始めたみた。
同じ悩みを持った人が多かった。

俺だけ辛いんじゃない。
そう思えた。
なぜか安心した。

自分からは
なにも発信しなかった。
もし自分の発言を否定されたら
怖いと思ったからだ。

通院は3週間に1度になった。
通院以外でも、
少し外出できるようになった。
窓から見える青空を
もっと大きく見たかった。

外に出て見上げた空は
綺麗な青空と真っ白な雲。
ずっと下を向いていた俺には
気づけなかった色が広がっていた。

スマホで、花や空
動物や料理、色々なものが見られた。
俺が見た事もない、
見る事もできない景色が
そこには広がっていた。

死にたい気持ちは
相変わらずあったが
今すぐに死のうとは
思わなくなっていた。

もちろん鬱病が完治したわけではない。
相変わらず睡眠薬がなければ
眠る事はできない。
でも、今はそれでいい。
今自分が自分として
認識できているだけで充分だ。
過去の自分よりも生きやすくなった。


ただ、困ったことに
行動力がついた為
「死にたい」と思うと
行動に移すようになったことだ。
今までは「死にたい」
と思っても布団の中に
閉じこもっていただけだったのに。
何かできる事に気づいてしまった。

俺は「死にたい」とSNSに
投稿した。
フォロー0フォロワー0
の俺の発言に
「いいね」が
つくはずがなかった。

それからも
「死にたい」と思うたびに
SNSに投稿した。
ただそれだけで
俺の「死にたい」欲は
満たされていた。


同じ様なつぶやきは
たくさんあった。
「今日死にます」
そんな投稿もみつけた。
コメント欄には
「死ぬな」「いい事あるさ」
など自殺を止める発言が多くあった。
その一方
「氏ね」「電車は止めるなよ」
などの発言も多かった。

相変わらず
俺の「死にたい」には
「いいね」もコメントもつかなかった。



何十回と
同じ内容を投稿した。

今日も朝から
「死にたい」と打った。
しかし投稿ボタンを押す指を止めた。

俺は何故死にたいのだろう?
確かに会社にいた時期は
疲労もあり、何もできない自分が嫌で
逃げたいという思いで
「死にたい」と言っていた。

では、今は?

相変わらず「死にたい」という
願望はある。
何故「死にたい」のか
理由を考えた。

上手い答えがみつからない。
自分を「死にたくない」と
思わせるほどの理由が
見つからなかった。

他の人は
どんな理由で死を選ぶのか
どの様な方法で死ぬのかが
気になった。

10分さえ集中できなかった
俺が、スマホの充電が切れるほど
情報を探した。

病気や孤独、いじめなど理由は
たくさんあった。
共感できるものもあったし
共感するのが難しい理由もあった。

首吊りや薬の過剰摂取、飛び降り
自殺方法も色々あった。
それぞれのメリット、デメリットも
あった。

自分が死ぬ理由を探すために
俺は生きていた。

ただ「死にたい」のだ。
幸い親族とは絶縁状態だ。
しかし、調べてみると
死後、親族に連絡がいく事がわかった。
そして、連絡がいかないように
する事ができる事も知った。

自分の行動が可笑しかった。
なんで死後の事を考えながら
死に方を探しているのだろう。
「死にたい」ならば
今すぐに死ねば良いのに。
考えれば考えるほど
行動に移すのが大変になっていった。
しかしただ「死ぬ方法」だけを
探す事に集中していた。


死後に見つかりたくないモノを
処分し、もう着ることもない
スーツも、流行の服も処分した。
カバンも必要なくなった。
革靴も必要ない。

自分が存在していた事を
証明するモノは、いらなくなった。
必要がなかった。


ホコリを被った、トレーニング器具。
先輩に進められた香水。
無理して買った腕時計。

全てが灰色にみえた。
「死ぬ」と決めたら
全てが不要になった。

「死にたい」のではない
「死ぬ」その為に
準備を始めた。

理由は考えられなかった。
考えれば
また鬱状態になる気がした。
もう、苦しみたくない。
その理由で、俺には充分だった。

部屋からモノがなくなる度
心が軽くなった。
この世界との繋がりが
なくなっていく事に
安心できた。

あとは自分が消える事で
終わりを迎える。
今まで感じたことのない高揚感。

スマホは
何を探すのにも便利だった。
自殺方法、自殺場所。

できるだけ確実に死ねる方法を探した。
苦しいのは、嫌だった。
失敗するのも嫌だった。
場所や時間帯も重要な事がわかった。

生憎、睡眠薬は処方されているが
きちんと使用しているため
過剰に残ってはいなかった。

失敗した事例を読み
中途半端な意気込みでは
成功しない。
真剣に「自殺」に取り組む事にした。

今までこんなに集中した事も
夢中になる事もなかった。


首吊りも成功する確率が高いとは
言えない。
電車や車への飛び込みも確実だとは
言いがたい。

焼身自殺や練炭自殺も考えたが
あまり魅力を、感じなかった。

服毒も、アタリハズレが多い。

結果シンプルに「飛び降り」を
選ぶ事にした。
有名な団地や、山、崖
できれば近場がよかった。

自殺方法は決めたものの
どこにするか迷っていた。

病院で相談すれば否定される事は
わかっていた。
俺は体調が安定していると告げ
変わらず通院を続けた。

病院とSNSだけが
俺と世界を結んでいた。

スマホで何度も検索した
「自殺場所」
自分にはいまいち
どれも向いていないように思えた。

SNSで相談でもしようかと
思ったが、冷やかされるのも
嫌だし、発言が原因で止めに
来られても困るからだ。

スマホ画面をスクロールしていく
興味のある記事をクリックして
開いては閉じて、
再びスクロールしていく。

普段は見ない『占い』のページも見てみた。
化粧の濃い女性のページには
『悩み事解決』
メールでも電話でもOKだと書いてある。
メールならば相談しても
良いかと思いクリックする。
価格は2000円。
別に高くはないが、
この女性占い師以外にも探して
みる事にした。

『占い』なんて、信じないが
初めて試してみるのもいいかも
しれない。
次々とページを開いていく。

どこもそんなに変わりはなかった。
ただ、ど派手なホームページの
占い師は、俺には合わないような
気がしてきた。

今まで見た事なかったが
わりと近くに男性の占い師の
店がある事を知った。

料金も安くて1000円
高くても5000円程度。
評判も悪くないどころか
かなりの好評価だった。

すでに太陽は登っていた。
このまま向かえば開店時間に間に合う
かもしれない。混む前ならば
男一人でも大丈夫だろう。

適当に着替え、ポケットに
財布とスマホを入れて向かった。
開店時間前についたが
すでに客が店に入っていた。

やっぱり人気店は、辞めておくか。
そう思ったが、今更帰るのも
癪だし、なんだか維持もあり
そのまま待っていることにした。
ネットには一人
10分~1時間だと書いてある。
運が良ければ、
すぐに出てくるかもしれない。

そんな期待もあった。
近くの自販機で水を買い戻ってくると
ちょうど開店時間だった。
ちびちびと、水を飲みながら待つが
なかなか終わらない。
しかし、ここで帰ったら
俺はもう『占い』など興味が
なくなると確信していた。

10分ほどたつと、カップルが
俺の後ろに並んだ。
ここまでくると、帰るのは悔しい。
店の客が帰るのを今か今かと
待っていたが、なかなか終わらず
疲れてきた。

しゃがみこんでスマホをいじる。
待つのも疲れてきた。
なんだか「自殺場所」を聞きに
『占い』に来た事に
自分自身であきれてきた。

30分ほどたったころ
ガラガラと引き戸が開きはじめた
俺は入り口に近づくと
小柄な女性が
お辞儀をして店を出ていった。

店に入ると
いかにも占い師って
格好した男性が座っている。

「よろしくお願いします」

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