ペンギン

学名:Sphenisciformes Spheniscidae
和名:ペンギン(人鳥)
分類:ペンギン目ペンギン科

ペンギンを見たことない人に説明してみるつもりで書いてみる

とにかく可愛らしい鳥である。6属18種が現存し、体長40~130 cmくらいの2足歩行をする飛べない鳥だ。飛べない鳥と聞くと、ダチョウやエミュー、ヒクイドリなど屈強な脚を持つ、まるで恐竜のような鳥を思い浮かべるかと思うが、ペンギンは全く異なる。あえて鳥で例えるとするならば、ニュージランドに生息する飛べないオウム、カカポを白黒にして、長細くしたような生き物だ。僕が考えるペンギンに最も類似したものはボーリングのピンだ。一箇所に集まり、佇む、白っぽい棒。不安定ながら立っており、ちょっとのことですぐ転ぶ。ちなみにボーリングのピンはおよそ34 cm、小学校3年生男子の平均身長が128.1 cmらしい(令和元年 文部科学省発表データ)。現生最小種のペンギンであるコビトペンギンが40 cm、現生最大種のコウテイペンギンが130 cm程度の体長である。小学校3年生男子のボーリング風景を見かけた際は、佇む10頭のコビトペンギンに狙いを定めたコウテイペンギンを思い出してほしい。なおコビトペンギンはニュージーランドやオーストラリアの南海岸沿いに、コウテイペンギンは南極大陸に生息しているため現実で彼らが出会うことはない。私事だがボーリングの際には、10ポンド(フンボルトペンギン)か11ポンド(マカロニペンギン)くらいのボールを投げている。

ペンギンという珍妙な名前が最初に登場したのは16世紀頃だと言われている。大航海時代、冒険家たちが南半球を旅した際、大きなウミガラスに似た鳥を発見し、これのシノニム(別名)として登場しているそうだ。名前の由来は諸説あり、ウェールズ語でのpen(頭)とgwyn(白い)という意味や、ラテン語でのpingois(太った, オイル)など様々である。ドイツ語やオランダ語ではペンギンのことを、Fat-goose(太ったガチョウ)を意味する、"Fettgans", "Vetgsns"と呼ぶこともあるらしいので、私はラテン語起源説を支持したい。確かにペンギンには、首やくびれといった部分は見当たらず、鳥らしからぬ見た目であることは否めない。

ペンギンは飛べないだけでなく、走るのも遅い。頑張って走ってもせいぜい人間の速歩き程度である。そんなよちよち歩きのペンギンだが、陸生生物の中で歩行時のエネルギー効率が最も良いという報告がある(Griffin, T. M., & Kram, R. (2000). Penguin waddling is not wasteful. Nature, 408(6815), 929-929.)。この報告によれば、人間の歩行時のエネルギー効率が約60%であるのに対して、ペンギンの歩行時のエネルギー効率は約80%ととても高効率であるらしい。一見非効率に見える歩き方も、極地で生き残るための適応戦略の賜物であるようだ。生き残るためにエネルギー効率良く歩く術を身につけ、厳しい環境でも生存できるように皮下脂肪と暖かい羽毛を蓄えた結果、ペンギン(太ったガチョウ)などと呼ばれているのはなんとも皮肉である。

デブ猫然り、アザラシ然り、太って見える生き物はとても愛らしい。ペンギンはその見た目の可愛らしさから、多くのキャラクターに採用されている。何でも肯定してくれるコウペンちゃんや、SuicaやLinuxのペンギンなど、枚挙にいとまがない。コウペンちゃんのモチーフとなったコウテイペンギンは全国で2館のみ、Suicaのペンギンのモチーフであるアデリーペンギンは全国で4館のみ飼育されている。有名なペンギンであるが、意外と見られる場所は少ないのである。大阪海遊館と八景島シーパラダイスではアデリーペンギンが、名古屋港水族館とアドベンチャーワールドでは、アデリーペンギンとコウテイペンギンの両方が見られる。なお名古屋港水族館とアドベンチャーワールドでは、全国で3館でのみ飼育されているヒゲペンギンも見ることができる。ヒゲペンギンは、なんとも言えないゆるキャラ感漂う、味のある顔をしており、個人的には好きなペンギンの一つだ。そんなヒゲペンギンは、長崎ペンギン水族館でも見ることが可能だ。この水族館には9種類のペンギンがおり、現存するペンギンの約半分もの種類のペンギンを一度に観察することができる。ちなみに九州でオウサマペンギンを見られるのはここだけであり、マカロニペンギンを飼育しているのは全国でここだけだ。なおマカロニペンギンの見た目は、でっかいミナミイワトビペンギンなので、「あー、イワトビペンギンね」と素通りしてしまわないように気をつけていただきたい。

ペンギンは北海道から九州までの多くの園館で飼育されているが、自然界では南半球の海沿いにのみ生息している。なんとなくペンギンと聞くと、北極や南極などの極地に生息しているイメージがあるが、実際には北極にはペンギンはおらず、チリやアルゼンチン、オーストラリア、アフリカの沿岸部や南極に生息している。ホッキョクグマとペンギンが同じ構図に収まっているイラストを見かけることがたまにあるが、自然界ではありえない構図なのだ。国や地域を合わせるならば、コアラやカンガルー、ラグビー、サッカー、赤ワインなどと一緒に描かれるべきなのかもしれない。

ペンギンは鳥類であり、総排泄孔から交尾・産卵をする。意外とご存じない方も多いが、基本的に鳥類・爬虫類は外生殖孔と排泄孔が分かれておらず、1つの総排泄孔を持っている。平たい言葉で言えばお尻の穴しかないのだ。つまりペンギンを含む鳥類はお尻の穴から排便・排尿を行い、お尻の穴から産卵し、お尻の穴で交尾をする。だからという訳ではないのだが、同性愛カップルのペンギンがいくつかの園館で確認されており、世界的にも同性愛の象徴として扱われることもある。コウテイペンギンの子育てはとても過酷なものとして有名だ。50 km近くの大移動の後、産卵し、1回の産卵で1, 2個の卵を産み、雄が約60日間飲まず食わずで抱卵し孵化させる。南極に吹き荒ぶ-60℃近いブリザードの中、約2ヶ月間もじっと耐え続けるのは並大抵の精神力では無理だろう。身長こそ小学3年生男子と同じだが、精神力はガンジー並だと思う。

僕とペンギン

僕の中にある最も古いペンギンの記憶は、整髪料のテレビCMに出ていたペンギンのキャラクターである。とても寒そうなところでイワトビペンギン(生息域を考えるとマカロニペンギン)のようなペンギンが「スーパーハード♪ラランッ♪ラランッ♪ラランッ♪ラランッ♪ラ♪」と愉快に歌いながら髪を整えるCMだ。当時私の父がペンギン同様にムースを使って髪を整えていたのを、羨望の眼差しで見ていたように覚えている。

そんな父とも、新型コロナウイルス感染症に伴う外出自粛で久しく会っていない。コロナ禍で多くの水族館が休館となる中、すみだ水族館や鳥羽水族館など多くの水族館が生き物たちの動画配信を行っていた。すみだ水族館はマゼランペンギンを多く飼育しており、ペンギンの館内散歩動画や、生まれた雛の飼育動画を数多く配信してくれた。特に4月21, 23, 27に孵化したばかりの、おもち、おこめ、きなこの成長動画は、自粛期間中の僕の楽しみだった。ふわふわの毛玉だった雛が、どんどん大きくなり、少しづつ毛が抜け、「もう大人ですけど?」みたいな顔をしている。くちばしの届かない頭と背中にびっしりと生え残っているふわふわの毛には気づいていないようだ。そんな3頭のペンギンたちの頭の毛もすっかり生え変わり、大人ペンギンたちがいるプールへと間もなくデビューするらしい。この数ヶ月の外出自粛生活で、出不精が加速し、身だしなみを整えないことがすっかり板についてしまった。今度の休みは、愉快な歌を口ずさみながら髪をセットしてペンギンに会いに行こうと思う。

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