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地獄への道は善意で舗装されている:読書録「悪の処世術」

・悪の処世術
著者:佐藤優
出版:宝島社新書



次から次へと著作を出版する佐藤優氏の近作。
対談本あたりになってくると、
「さすがに粗製濫造では…」
と思わざるを得なかったりもするんですがw、ベースとなる「知識量」と、外交官時代の「経験量」には「さすが」と思わざるを得ません。
本作なんかは、その「本領発揮」の一作かもしれません。(ご本人にとっては「お蔵出し」かもしれませんがw)


現代世界史における「独裁者」11人(存命が5名、歴史上の人物が6名)を取り上げ、それぞれの「独裁」の特徴を整理した作品です。
新型コロナ対策に世界中が奔走する中、比較的うまく対処出来ている国に「強権的」な国家が多いことから、民主主義に対する疑念と強権国家への見直しの風潮が生まれていることを踏まえて…ってことでしょうね。


取り上げられているのは以下。


<存命>
・ウラジミール・プーチン(ロシア)
・習近平(中国)
・ドナルド・トランプ(アメリカ)
・金正恩(北朝鮮)
・バッシャミール・アル・アサド(シリア)

<歴史上>
・エンベル・ホッシャ(アルバニア)
・アドルフ・ヒトラー(ドイツ)
・毛沢東(中国)
・ヨシフ・スターリン(ソ連)
・カダフィ大佐(リビア)
・金日成(北朝鮮)


興味深いのは、作者自身、「20世紀の独裁者の中でもっとも興味を持っている」という「エンベル・ホッシャ(アルバニア)」でしょうか?
理念を持ち、その理念に忠実で首尾一貫して独裁政治を貫き(内政においても、外交にいても)、国民を飢えさせることのなかった独裁者。
それでいて、ホッシャ死後のアルバニアは内部崩壊し、<今や国際テロリズムや犯罪の温床となっている>そうです。
佐藤氏の「独裁政権」に対する評価の根幹には、その歴史を踏まえた冷めたものがあるのではないか、と。


「ヒトラー」に対する評価も興味深いです。
<理念>ではなく、<生存闘争>(=生き残るためには何をしてもいい)を政治と定義したヒトラーのあり方に、作者は現代日本に通じる懸念を指摘しています。


<国民は、凡庸な指導者が次々と現れることに慣れ、政治にまったく期待しなくなる。その結果、国家が弱体化し、外敵につけ込む隙を与えると警鐘を鳴らす。ヒトラーは、人間の劣等感や嫉妬心など、目に見えない感情を捉える天才的才能をもって、この危機に介入した。危機の時代の国家指導者は、有象無象の国民によって選ばれるのではなく、卓越した能力、決断力と豪胆を備え、国家と民族のために命を捧げる覚悟ができている者でないと務まらないと喧伝し、弱肉強食以外のいかなる論理も承認しなかった。人間には力の論理を超える価値は何もないというニヒリズムを、弱者のヒューマニティに取って代わる「強者のヒューマニティ」と位置づけたのだ。  
未曽有の危機、国家の弱体化の入り口に立っている現代日本は、この「ニヒリズムの革命」が社会の熱狂的な支持を集め、破滅的な終局に至った過去の歴史を、今一度思い返さなければならない。>

いや、笑い飛ばせません。


作者自身の経験に基づいた「プーチン」評、僕自身、今ひとつよくわからないシリアの「あり方」を解説してくれる「アサド」評等、どれも読ませてくれます。
最後は惨憺たる結果にたどり着いたとしても、それぞれの独裁者が最初から「国家を無茶苦茶にしよう」と思ってたわけじゃないんですよね。
そこには「国を憂う気持ち」があり、「理想」や「理念」もある。
それなのに…というのが「歴史」の答えであり、そこから「現代」への問いかけがなされているわけです。
興味深く読むことができました。


ちなみに「コロナ」と「民主主義」についてですが、最初は惨憺たる状況だった「イギリス」が、<現時点では>成功しつつあるように思われる…ってあたり、新たな要素として考えなきゃいけないかな、と考えています。
要すれば「戦略」「戦術」の立て方であり、それを徹底する「統治機構」の活用の問題なのではないか…と。
別に「民主主義だからダメ」ってわけでもないんじゃないかって話です。理念や思想の話じゃないってこと。
まあ、独裁制の場合、「戦略」「戦術」が間違ってた場合の悲劇はトンデモナイってのは、「毛沢東」が証明してくれてるってのもありますし。
(一方、民主主義の場合、失敗の方向転換がしやすい余地があるってのもあります。)


とはいえ、現在の日本の「あり方」が決して褒められたもんじゃない…ってのも確かとは思いますがね。
ここは絶対に検証しなきゃいけないことです。



#読書感想文
#悪の処世術
#佐藤優

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