ISO50とモノレールに乗って。
思えばこれまでISO100未満のフィルムに手を出してこなかった。なぜか今年になってISO50とか、ISO80などの低感度フィルムの存在が気になり始めた。そこでこの夏は日差しの強さを活用して、低感度フィルムを使って撮影してみようと思い立った。
今回使用したフィルムは写真中央に写っている「Silberra color 50」というもの。ロシアのフィルムメーカーが製造しているそうで、ちょっとKodakと見紛う感も拭えないがシンプルでレトロなパッケージがかわいいフィルムだ。
そして低感度カラーフィルムの被写体として選んだのは、以前より気になっていた湘南モノレール沿線。今回は気兼ねなく途中下車を楽しめるよう1日フリーパスを購入することにした。大船駅の窓口で「1日フリーパスください」と言うと、駅員さんが「湘南モノレールのみでのご利用ですがよろしいですか?」と申し訳なさそうな表情で念を押す。きっと鎌倉あたりまで使えるパスだと誤解されることが多いのだろう。大丈夫です。わたしはこのモノレールを乗り降りするためだけにやってきました!
湘南モノレール江ノ島線は、大船駅から湘南江ノ島駅までを14分で結ぶ短い路線ではあるものの、途中には住宅街あり、古びた団地の景色あり、かと思えば木立の中をすり抜けトンネルをくぐり、高台からは遠くきらめく相模湾も見渡せる。しかもアップダウンが激しいコース(?)を、最高速度75km/hで颯爽と駆け抜けるのだ。モノレールのホームページでもまず最初のポイントとして「湘南ジェットコースター」を自称(自慢)している。
"この大胆な走りの理由は、懸垂式にあり。
もともとぶら下がっているため、いくら振り回されても落ちることはありません。"(ホームページより)
なんともワクワクさせる説明文。この一文で、湘南モノレールのことをますます好きになってしまいそうだ。
大船駅を出発した懸垂式モノレールが湘南町屋駅に停車したところで下車。
しばらく歩くと団地が見えてきた。モノレールに乗るたび気になっていた光景だ。
そこには昔ながらの団地が静かに広がっていた。
かなり古い団地だから空室もかなり目立っていたが人の気配がないわけではない。宅配の車が通りかかり、女の人が菓子包みを手にタクシーから降り立つ。女の子を後ろの席に乗せた父親が自転車に乗って追い越していく。
小さな公園の掲示板に貼られた何枚かのお知らせ。開け放たれた窓からはカーテンがふわふわと舞い上がり、どこからか高校野球の実況中継が漏れ聴こえてくる。これぞ夏の昼下がりだ。
モノレールの線路と団地の建物がせめぎあうように並んでいる。モノレールに乗ってこの辺りを通過するたびに車窓から目で追っていた景色だ。ようやく地上から見上げることができた。
止まらない時の流れの中に静かに佇む町。
どこを歩いても何を見ても人々が暮らした気配の層に満ちていて安らかな気持ちになる。
Silberra color 50は黄色味の強いフィルムだった。真夏の日差しに照り付けられる古い団地という被写体を、少し翳りを帯びた風情で写しとってくれた。
それにしても本当に暑い日だった。
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