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続・書店難民。

自宅周辺においては最後の砦だった駅前の書店が、先月末でとうとう閉店してしまった。

この町で暮らし始めて20年あまり、常に最も身近にあった書店だった。
店舗は広すぎず狭すぎず(大型書店はやたら疲れてしまうし、狭いと店員さんの存在感に緊張する)ぶらぶら気ままに物色するにはちょうど良い広さだった。本の品揃えに関しては余計な色気を出すことなく、マニアックさもなく、でも必ず何かしら読みたい本が見つかる本屋さんだった。文具も取り扱っていて、筆記具や便箋などでもたびたびお世話になっていた。

店舗は駅前のバスターミナル沿いに建ち並ぶ団地の2階部分にあり、専用の外階段を使って出入りした。階下にはドトールコーヒーが入っていたし、書店入り口の自動ドアから一歩外へ踏み出すといつも利用しているバス停がちょうど見下ろせる場所にあって、それはもう最高の条件が揃っていた。

ある日、バスターミナルに向かって迫り出している書店のガラス窓に閉店を告げる貼り紙が掲げられてからは寂しさのあまり一度も足を踏み入れることなく閉店してしまった。
最近になって空き店舗のある景色にも慣れてきたので、しばらく振りで専用の階段を登ってお店の跡地を訪ねてみた。

書店は、いや、かつて書店だった場所は内装はおろか、看板や外壁も、一片も残すことなく見事に引っ剥がされていた。センチメンタルな面影などみじんも感じられないほどあっけらかんとしていた。解体業者の仕事の徹底ぶりに思わず感心してしまった。
カメラを持っていたので記念に写真を撮っていると、通行人の何人かに不審な眼差しを投げかけられた。

スケルトンに戻った空間に一面ガラス張りの窓から午後の光がさんさんと射し込んでいた。営業していた時には窓沿いにびっしりと背の高い本棚が並べられていたから気にも留めていなかったけれど、ここは抜群に陽当たりの良い場所だ。この贅沢な陽当たりを本棚で遮断して、何十年も営業していたのだと思うとなんだか可笑しくなってきた。


贔屓の本屋は残すところあと一軒。
職場の最寄り駅入り口脇にある書店が本当に最後の最後の砦だ。


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