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将来の夢は植物になることだった

 夢の話をしようと思う。将来の夢。
 とはいえ夢がある!と言っても私は現代社会が生み出してしまった廃人:doomerであるからして、大層な野望は抱かない性質なのである。 



 小さい頃からそうだ。
 5才ぐらいでは、皆「しょうぼうし」とか、「おはなやさん」とかそういう類の将来の夢を持っていると思う。私もそんなノリで、「パティシエール」になりたいと言っていた。それぐらいしか職業を知らなかったからだ。
 だいたいの人は、小学生3,4年生にもなると、子供っぽい夢だなと思ってその夢をひっそりと捨てるのだろうが、恐ろしいことに、私は中学3年までパティシエールになりたいと言っていたのである。
 別に私はお菓子作りは1年に数回しかしないし、お菓子や食べ物に全く興味がなかった。夢がないために、将来の夢はパティシエールという子供っぽい体裁をずっと保っていたのである!お、恐ろしい。あまりにも周りの空気とか読まなさ過ぎてむしろすごい。


 高校生になったばかりころの夢は、「ツタになりたい」だった。植物のツタ。

 田舎の金持ちというのは、都会の金持ちよりもたちが悪いようにおもう。閉鎖的で、格差があり、意固地なババアのような性質がある社会の片鱗を高校に入って感じた。
 あっという間に私は禁欲主義に自然と傾倒していった。世の中のものを醜いものと崇高なものの2つに分類していった。軽蔑すべきものと、潔癖なもの。
 欲望はとても醜いものだと思い、欲望を抱く人間を醜いものだと思うようになった。お金、人間の住む建物、現代的な生活、人間にまつわるすべてを軽蔑していた。
 反対に、流れる風や土や水を受け止め、逆らおうという欲望を持たずただそのまま生きる植物を崇高なものだとみなした。
 また、人間が住まない建物である廃墟もまた、世俗から離れた場所であり、自然物が人間の創造物を淘汰するという点で崇高なものとみなした。醜い人間の建造物を少しずつ包み込み、淘汰していく植物を見ることだけが、当時の私の喜びだった。
 このようにして、私のツタ信仰は大成されたのであった。

 しかし、この信仰は長くは続かなかった。真面目に出家しようとお寺のウェブサイトを調べたりしたが、スマートフォンという文明の利器であり欲望と資本主義の塊みたいなものを触っている時点で私の信仰に反しているのであった。
 要するに、これは誰もが気づくことかもしれないが、日本の現代社会では、禁欲主義的信仰は無理なのである。これがどこか、外国ならできるかもしれないが、ちっぽけな私にはそこまでの覚悟も時間もなかった。この浅はかな信仰はただの中二病患者の儚い夢として、少しずつ散っていった。


 それから私は、この信仰の古傷として鬱や、無感情症を抱えながら高校生時代を過ごした。唯一心を癒してくれるのが、世界史だった。古代の建築物には廃墟に似た崇高さを感じたし、異国には古代からあまり変わらない生活や信仰をしている人がまだどこかにいるかもしれないと思うと、それだけで少し救われた。
 世界史や古い異国の建築物には、中学生の頃から惹かれるものを感じていた。特にロマンを感じるのは、異なる文明や価値観が交差したり、人を伝って遥か遠くまで伝播したりするところ。自分自身が全く異なる価値観を知るのも好きだった。

 結局のところ、私は人間のことを憎いと思いつつも、愛おしいと思っていたのである。交わり合って社会を形成し、欲望や異なる価値観のぶつかり合いによって進化していく人間。私は少し成長して、人に優しくなれたのだった。


 今の夢は、「価値観フルコンプリート」。もちろん一人一人に違った価値観はあるため完全なフルコンプリートは無理だろうけど、今まで見てこなかった世界をできる限り見てみたいと思う。

 まずは国内。私は未だに本物の東京に生息する本物の金持ちに出会ったことがない。出会う方法は、とっても簡単。勉強すればいいのである。
 金持ちの子どもは、多分、子供の頃山でかけっこしてた私と違って、ある面で無知で、柔らかくて、弱くてかわいいんだろうなと思います。楽しみ。

 それとやはりインドに行きたい。未だにカースト制度があって、しかも国民はそれを当たり前だと思っていて、壊そうともしない、「今」を認める国。別にインドが素晴らしいと言っているわけでも、表面的に「価値観変わるらしいじゃん?」と思っているわけでもなく、たたただ日本にはない「異国」への憧れがあるだけである。

 他にも行きたい国は色々ある。イラン、トルコ、モンゴル、スペイン、エジプト、イタリア…私は廃れた日本の若者だけど、ただ穏やかな淡い希望は心の奥底に秘めているのです。


Thank you for reading all of this♡


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