見出し画像

我が家はそろそろ限界ッス

この記事は、世界各国の物書きによるリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」への寄稿です。第7回目のテーマは「最近始めたこと」。5人目はイタリアからすずきけいがお届けします。文末にはほかの国から、同じテーマで書かれたエッセイの紹介があります!

過去のラインナップは随時まとめてあるマガジンをご覧ください。

最近、なんだか家が手狭になってきた。

理由はもうわかっている。娘がだんだん大きくなって、自分のスペースが必要になってきたからだ。ミラノ市内の、でも10分も歩けば別のコムーネ(市)にたどり着くギリギリの場所にある我が家は、2部屋の小さなアパートで、妻と娘と3人で住むにはちょっと狭い。

8年前にここに引っ越して来たときは夫婦2人だったので十分、むしろモノが少なかったので広く感じたほどだった。でも暮らしているうちにモノが増えて手狭になってきた。ついでに娘まで増えた。

モノは増えても騒がないが、娘は体育館で反復横跳びでもしてんのかってくらい、家の中を全力で走り回る。あと、アナ雪の主題歌を大声で歌いながらくるくる回り続ける。将来の夢はお姫様だそうだ。この家をお城にするためには、あと50部屋は増やす必要があるだろう。

娘は去年の9月から小学生になり、教科書やらかばんやら理科の実験のよくわからない植物やら、とにかく荷物が一気に増えた。少し前まではそれがソファやリビングのテーブルをぎっちりと占領していて、まず片付けをしないとソファにも座れないくらいだった。

画像1

自分は汚れているのは気にならないけど散らかっているのはダメで(ちなみに妻は逆)頭の中がキーっとなりだした。これはアカンとあわててIKEAに行って、机と椅子と本棚を買ってきてリビングの片隅に置いた。そしてそこに、娘の荷物を集めてギュッと詰め込んだ。

娘ははじめてできた自分のスペースに大喜びで、そこにずっと居着くようになった。なんなら朝ごはんまでそこで食べている。

朝起きると自分の机でご飯を食べて、そのままオンライン授業を受けて、終わったらおもちゃを出して同じ場所で遊んでいる。会社のデスクに住み着いている社畜のようだ。

画像2

大喜びは結構だけど、いつまでもこのままってわけにもいかない。娘はぐんぐん伸びるし、荷物ももっと増えるだろう。妻はずっとリモートワークだし、僕はもともと自宅で仕事をしている。2部屋をやりくりしてごまかすのにも限界がある。

イタリアの賃貸は4+4年契約が一般的で、まずは4年間住み、お互いに問題がなければその後4年間更新する。8年がワンセットだ。実は今年の2月にこの8年を終え、大家のおばちゃんと「で、今後どうする?」の話し合いがあった。

自分も妻もわりかしのんびりしているので「いやー、できればこのままお願いしたいッス」と言ったら「じゃあお家賃250ユーロ値上げでどうかしら」と返されてちょっとモメた。いやいや、250ユーロて。

イタリアはインフレが激しいから、8年前に比べると物価はかなり上がっている。当時は1ユーロで飲めたカフェは1.2ユーロになり、1.3ユーロくらいだた卵のパックは1.8ユーロになった。だから家賃の値上げも妥当と言えるのかもしれない。けど、だからといって1ヶ月250ユーロ(35,000円くらい!)も値上がるとさすがにつらい。

話し合いの結果、最終的には家賃据え置きでこのまま住めることになったが、大家のおばちゃんには「そろそろ娘さんも大きくなったし、広い家を探してみては?」とやんわり言われた。おばちゃんとしては僕らを追い出して、もう少し高い家賃で借りてくれる人を見つけたいのかもしれない。イタリアの法律上、大家よりも借主のほうが立場が強いのでいきなり追い出されたりはしないと思うが、おばちゃんの言い分にも一理ある。

そんなこともあって、最近僕ら夫婦は「どこかに安くて広くて駅とスーパーが近くにあるお城はねえべか」と不動産サイトをながめ始めるようになった。

問題は、そもそもどこに買おうかって話である。

お城は不動産サイトに載っていなかったので早々に諦めたが、できれば広いほうがいい。でもミラノ市内は高い。郊外に出たほうが同じ値段でも広くて、家の内容もよくなる。僕は広いベランダが欲しくて、妻はプライベートの庭がほしいらしい。やっぱりお城がいいかもしれない。どこかに当たった宝くじでも落ちてないかな。

実は、家を買う話が出たのは今回が初めてではない。1年くらい前にも「そろそろ家買いたいねー」と言って実際に何件か見に行ったこともある。でも見ているうちにお互いの希望条件がブレブレになり、どこに買うかも決められなくなって、そのうちコロナやらなんやらが始まってグシャグシャっとなった。

その時の「家買いたいねー」は茶飲み話くらいの余裕があったけど、そろそろ「いやもうさすがに買わないとまずくない?」の雰囲気になってきた。そうこうしているうちにも娘はぐんぐん伸び、相変わらず家の中を走り回っている。おまけにアパートの下の住人は、足音に対してちょっと神経質だ。

今のところミラノ郊外に引っ越そうってことで一致しているが、さてさてどうなるか。この話、また動きがあったら更新したいと思う。

前回走者、がぅちゃん(がぅちゃんさん?)の記事はこちら。

最近始めたのは「世界ごはんたべ記」という食レポ。Twitterでも更新しているのでチラチラ見てたんですが、中でも気になってしょうがなかったのがこちら。

さば! 店のただずまいとかメニューに「おつゆ」って書いてるとことか、いろいろと琴線に触れることは多いんですが、何よりこの銀色に光り輝くさばの皮目にもだえます。ご飯かきこみながら30秒くらいで平らげたい。そのあともう一人前注文して「あーやっぱり多かったなー」って言いながら30分くらいかけてゆっくり食べたい。

そして、次回のバトンを渡すのはネルソン水嶋さん。前回の記事はこちら。​

ベトナムやタイなどいろいろな場所で活躍する水嶋さんですが「なんでそんなトラブル多いの!?」ってくらいヘンな体験談が多くて(ドリアンかぶったとかダチョウから落ちたとか)多分あんまり笑えない状況なんだけど、なんだか笑い話になっているのはご本人の人柄によるものなんでしょうか。そんな水嶋さんの「最近始めたこと」どうぞお楽しみに!

ハッシュタグで参加募集!
固定メンバーで回してきた本企画ですが、海外の話を書きたいな、とお思いの方!ぜひぜひ「 #日本にいないエッセイストクラブ 」というハッシュタグを付けてお気軽にご参加ください。招待させていただくこともあります。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます! サポートいただいた日は、ちょっと贅沢に生パスタを茹でます。