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民族主義者(≠排外主義者)石丸伸二は大規模移民政策を止めることが出来るか? 

 元安芸高田市長石丸伸二氏が東京都知事選に出馬します。
 市長としての実績とか議会や地元メディアを相手にした騒動や敗け続けの裁判とかは、散々紹介されているのでここでは扱いません。都知事候補としての石丸伸二氏の主張とそれが日本社会に与えるかもしれない影響について、今わかる範囲でまとめてみます。

人口減少が引き起こす日本の破局


 石丸伸二の危機感の核は人口減少を原因とする破局の回避です。日本では2020年から2040年までに1,300万人の人口減少が予測されています。そこで起こるのは単純な労働力不足でありません。
 行き過ぎた少子高齢化で地方自治体の財政破綻発生。それに連鎖して地方金融機関の破綻が発生。そして地方金融機関の破綻に端を発する、日本の金融システムの破綻ドミノが石丸氏の危機感の中心です。
 そんなにヤバいなら、他の解決策をとることが出来ます。大規模移民です。ところが、石丸伸二氏は移民政策を否定します。
「民意として向かない」
「それ(移民政策)をやって何を守るのかていう… 
 日本でなくなりますよね」
(下記 【緊急生配信】石丸市長…なぜ市長辞めるんですか?安芸高田市【石丸伸二vs西田亮介vs高橋弘樹】2024/05/13 / 1:34:00 ~1:36:00 辺りで 政治学者西田両介・映像ディレクター高橋弘樹との対談の形で語っています)

 人口減少による経済の破局を(大規模)移民政策を実施せず、日本人だけで解決し日本が滅ぶのを回避しなければならない という危機意識です。
本人はそういう言葉を使ったことはないはずですが、日本という国を国土と文化と制度だけでなく、日本民族のものとして維持していこうとしているわけですから、

石丸伸二は民族主義者なのでしょう。

 但し、本人を含めて誰も彼のことを民族主義者と呼ばないのは、一般的に民族主義者を自称する人たちは理想も原則も能力もないただの排外主義者だからです。排外主義だけでなく、憲法改正云々とか、逆に護憲の為なら日本が滅んでも構わないとかそういうイデオロギーを石丸氏はほとんど匂わせることがありません。このイデオロギー的無味無臭は、彼が元はエリート銀行員であったのが関係しているのかもしれません。銀行員は、リテール業務では事務要綱を徹底厳守して業務しないと当局に叱られます。金融市場でも市場のルールと各種指導に従わなければ市場から退場させられます。厳然たるルール・顧客の信用度・市場というような体制の枠組みの中で結果を出す仕事。彼の主張は結果として民族主義的になってしまっていますが、要は日本国民の民意のモード/最頻値を彼なりに測った結果、【排外主義的ではないが民族主義】のポジションになっているのかもしれません。

危機意識に実態はあるか

 とは言え、地方自治体の破綻→地方金融機関の破綻→金融システム破綻が連鎖するという説明はにわかには飲み込めません。そんなに地方自治体は地方金融機関に依存しているのか?これについては別のところで説明していました。地方自治体が発行する地方債の引き受け手が地方金融機関なのです。債権なので当然担保はありません。あまりこの話を具体的にしてしまうと、その情報が引き金となって取り付け騒ぎが起こってしまうというリスクもゼロではありませんから、石丸氏自身どこの自治体という話はしていません。ただ、上記動画内でも西田亮介先生もその危機の存在は認めています。

大規模移民政策により日本は日本でなくなるか?

 ここは石丸氏の政策・思想とは関係ない世の中の仕組みの話になります。仮に1300万人の人口減を埋め合わせる場合、どのような移民政策が必要なのか? 完全に補完する必要はありませんが、生産年齢人口(15~65歳)を移民で補完するとなると、数百万人規模となるのは明らかです。技能実習生(現在約41万人)のような中途半端な制度では不十分。
 数百万人の外国人にとって日本が魅力的な移住先となるのはどんな場合でしょうか? 自分が移住する立場になって考えてみれば答えは明らかです。技能研修生方式=出稼ぎ方式の場合、必ず帰国するので日本滞在期間中に十分に稼ぐ必要があります。ところが技能研修生の賃金は日本の法律を守っていればそれでOK。ちなみに、2024年4月のアメリカ製造業の平均時給は33.61ドル/5209円(155円換算)。私が出稼ぎに行きたくなるレベルです。
 そうなると、廉価で質の高い医療とか公立学校教師の無料奉仕で成り立っている至れり尽くせりの公立学校サービスを目当てにした、永住希望者を引き寄せるしかありません。ただその場合、日本で家族を持つことになりますので、日本国籍付与条件を血統主義から出生地主義に変更する必要が出てきます。自分が生産年齢でかつ永住前提でどこかの国に移住することを考えてみれば、当然の変更だと理解できると思います。そして何が起きるか?出生地主義のドイツでは現在、新生児の25%の母親が外国人。移民系+外国人と伝統的ドイツ系人の新生児割合では伝統的ドイツ人が50%を切っているようです。大規模移民受け入れのタイミングで日本への移民を目指すのは、中国の人たちか?ひょっとして崩壊後の北朝鮮の人たちか?
 石丸伸二の「(大規模移民政策を実施すると)日本でなくなりますよね」というのは、そこまでの状況を織り込んでの発言でしょう。

で、具体策は?

 今までに公になった石丸伸二の発言を観察した限りでは、彼の危機感の核は人口減少放置による日本経済の破局です。その対策としてまとまったものは発表されておらず、5月17日の都知事選出馬表明記者会見では基本の考え方のみが示されました。

東京を世界一住みやすいまちにする
つまり、東京の諸問題の原因である過密を解消する
つまり、地方からの流入減速/地方の人口減減速を実現する

程度です。
 人口動態の調整については、「(出産年齢の)若い女性の都市部への偏在」が婚姻数減/出生減の原因として調整対象であるとの認識でしたが、東京都と地方の密なコミュニケーションと連携以上のものはありませんでした。 
 石丸伸二の著書『シン・日本列島改造論』が7月7日の都知事選投開票日の後、7月10日に発売されるので、詳細はそこに盛り込まれているのでしょう。庵野秀明と田中角栄を両どりした、身の程知らずともいえるタイトルですが、”シン・”の部分は愛嬌かもしれません。
本人の想いとしては、シンジくんが【逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ】と国難に立ち向かう挑戦なのかも。

 折角本まで書いてあるのに、選挙前に出版しないのは何故か?ということなんですが、手の内を早々に晒してしまうと、老獪な小池百合子現職がアイディアを丸のみして争点を消してしまうリスクがあります。選挙期間中に何らかの形で具体案を小出しにしていって継続的に話題を作り注目を集め、知名度・実績・組織票において完全に不利な状況を反転させるという作戦かもしれません。その過程そのものが、東京都民の投票行動によって日本を救うことが出来る・大規模難民を阻止することが出来るというメッセージになります。それはすなわち、都政にあまり興味を持たない東京生まれでない都民(都民の45%といわれます)の浮動票や、過密解消=賃貸料下落を期待する不動産を持たない東京都民の票の掘り起こしにつながります。

 但し、日本の田舎の女性の人生のリアリティとしては、石丸伸二の政策が機能した結果、地方から東京へ逃げ出す選択肢が狭まるような世の中になるなら一足飛びに海外へ逃げてやる!ということにもなりかねません。東京・地方に関係なく、優秀な女性から順番に移住前提で海外へ向かっているという傾向は、統計数字には現れにくくても実感している方は多いのではないでしょうか?
 民族主義者は多くの場合家父長制的な発想を持ちがちです。民族主義者石丸伸二は、排外主義からは距離をとっているようではあります。しかし家父長制をも相対化した上で、若い女性の行動変容を実現するような政策を打ち出せるのか? あと少しで明らかになるので注目したいと思います。