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Flee - アニメーションは必要悪


悲惨過ぎてアニメーションじゃないと観客が辛くて耐えられない話というのがあって、フィクションではフランスの孤児院の話「僕の名前はズッキーニ」、実話ベースだと北朝鮮の収容所の話「トゥルーノース」とか「火垂るの墓」。あと、公開規模が小さすぎて未見ですがクメール・ルージュ革命時の狂気の中のお話「FUNAN」とか…

Fleeは、1989年親ソ連政権崩壊時に間一髪のタイミングでロシアへ逃げ、その後不法移民としてロシアで酷い目に遭い、密航業者へお金を払って何回目かの命懸けの試みで欧州へ逃げることが出来て…というアフガニスタン難民一家の壮絶な経験をゲイの三男アミンが語るドキュメンタリー。

話が悲惨なのもそうですが、基本おじさんがひたすら身の上話を続けるだけなので、普通に映像化したら退屈で大変。アニメーション化してもらったおかげで、むしろリアルに追体験が出来る。あと、全編アニメーションで顔出ししないので本人の素性を隠して安全を確保しています。

 映像の力みたいなものを信じるなら、本人が自分の経験を語るときの表情や言葉に詰まる姿みたいなところにドキュメンタリー映画が説得力を得たはずと考えることはできます。アニメーションでは全て隠されてしまう。ただ、タリバン+ロシア+欧州の難民受入れ体制+そこら辺にいるゲイを憎む人達…アミンと彼の家族に数々の苦痛・屈辱・試練を与えて来た全ては今も彼の人生にとってはリスクとなっています。 

 彼の人生をドキュメンタリーとして映像化するにあたって、アニメーションは必要悪だったのです。こんな風にしてまで映像化しないと、伝えることが出来ない人生があるというのを実感するだけでも、観る価値があったと思われますけれども。