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ディズニーの『ウィッシュ』~遠慮がちトランプ批判のせいで、炎上もヒットもしなかった説

 ディズニー100周年記念作品として製作された、原作・元ネタなしのオリジナルストーリーの御伽噺アニメーション映画『ウィッシュ』。米国ではもう心配になるほど興行成績が不調です。なぜだろう?と思っていたんですが観てみたら、実はえらい政治的なテーマの話なのに、そこを遠慮したせいでよく分からない話になっていたんでした。

 夢がかなう国として夢をかなえたい人達を受け入れてきた国~ロサス王国が舞台。アメリカン・ドリームをかなえたい移民たちが作った国アメリカの隠喩です。そこに、カリスマ性があって口当たりのいい約束をみんなとするけど約束を守る気は一切ない、気まぐれな魔法使いが王として君臨しています。18歳になるとみな国民は王に願いを託し、王がいつか願いを叶えてくれることを楽しみにしていますが、自分が託した願い自体を当人は覚えていることができません。願いがかなうことを待ち続けて100歳になる自分のおじいさんの願いを王にかなえてもらいたいと思った主人公のアーシャは、王に近づくために見習いになろうとします。ところがその面接で王の本心を知ってしまいます。何とかしなければと夜空に願いをかけたところ、願い星スターが現れて…というお話。
 見習い=アプレンティスを罵倒してクビにするとか、みんなと約束をするがとくに約束を守る気はないとか、そんな王に自発的に自分の願いを託す18歳以上の大人たち=有権者たちの気持ち悪さとか、多くの点でトランプ大統領を思い起こさせる要素がありました。
 但し、炎上を恐れたのか何から何までトランプそのままではありません。移民を追い返さないとか、お城のスタッフの人件費は踏み倒していないようだとか、きちんと成敗されて囚われの身になるとか… 随分違います。
 特に、トランプ批判を嗅ぎ取った人は米国でも沢山はいなかったようで、炎上すらしていません。下記はひとつだけ発見した記事です。

「ディスニーのウィッシュはアニメーション版の反トランプ寓話」


 恐らくは反トランプ的な意図はあったものの、炎上回避なのかディズニー作品としての品格を保とうとした結果なのか分かりませんが、中途半端なお話になってしまったのかな?という印象の映画でした。

 ざっと失敗した要素としては…
・遠慮し過ぎで王様(トランプ)が悪役になりきってないので、お話に爽快感が足りない
・王様(トランプ)の悪さを調節(?)するために、悪役がストーリーの中で成長してより悪者になるのに、主人公は別に成長しないという謎展開
・”みんなの願い”なんて映像にしたらすごく多様で飽きないはずなのに、素朴に全部オーブで表現したので映像の面白みも限定的
・孫がばあちゃんに気に入ってもらうだけの話なのに曲が面白くて大ヒットした『ミラベルと魔法だらけの家』と比べてしまうと、メロディは複雑だけど印象の薄い曲

 なんというか寸止め感と迷走感が満載で、ひっかかるところがなかった。
結果、米国で興行収入最高位3位のあと、さらに低迷という失敗作となりました。

 ただ日本だけはディスニー・ジャパンが頑張りました。日本では興行収入1位スタートとなっています。

 日本市場で当たった要因としては、
・声優であっても劇場に客を呼ぶことが出来る福山雅治を吹替え版の王様役に起用し、米国での失敗の原因のキャラを成功の原因に大転換した
和田アキ子の後継がおそらく指原莉乃。その一方で、米倉涼子+松たか子を超える可能性のある生田絵梨花をアーシャにキャスティング
・100年分のディズニーブランドの力を使って、吹替え版声優として豪華なカメオ出演者たちを大集結させた
・実はアーシャは平民だが、過去のディズニープリンセスを予告編に大量投入して正統派ディズニープリンセスものとして宣伝
…あたりが要因かと思われます。日本の現地法人の作戦勝ちです。

 実は日本語版主題歌の ”こーのーねー【が】ーい~”他の部分の鼻濁音が出来てないとか、さらに細かいところはあるんですが、色んな意味で興味深い作品として記憶には残る映画だと思いますけれども。